13. 逃亡『城内の妖精』
某日。某帝国内にて。
「決して逃すなァッ!! 生死は問わんッ!! 引っ捕えよッ!!」
夜も老け人々も寝静った頃。とある帝城に怒号が響き渡った。その声の先にあったのは、蛍ほどの小さな光。その光は背後に迫る魔法使いの兵達から逃げるため、勢いよく城内廊下へと飛び出した。
ローブを羽織った魔法使いの兵達は直様その光を追いかける。
飛び出した先は一直線の長い廊下。
もちろん彼らは城内構造を把握していた。廊下に出た瞬間、その光へ向けて一斉にロッドを構える。
「炎弾〈ファイヤーボール〉ッ!!」
「岩撃〈ロックシュート〉ォ!!」
「風斬〈ウィンドブレイド〉ッ!!」
夜であり更には城内というのにも関わらず彼らは容赦なく魔法攻撃を放つ。炎の球に大きな岩の塊、風の斬撃がその光へ勢いよく迫っていく。
「――ッ! 魔法障壁〈マジックシールド〉ッッ!!」
幼い声のする蛍のような光は、直様透明な壁を作り出し魔法攻撃を防ぎきった。その攻撃では一切傷はつかなかったシールドだったが、持続出来る程の力は残っておらず直ぐにパリパリと砕けてなくなってしまう。
「はぁ……ッ……はぁッ……もう嫌ッ……なんなのッ……」
その光は息も絶え絶え呟いた。
更に魔力を大きく消費したことで身に纏う光は徐々に薄れ、その輪郭を露わにしていく。
その蛍のような光は『妖精』だった。
薄く輝く四枚の透明な羽根。蜂蜜色の髪に赤い瞳。薄黄色のヒラヒラとした洋服。髪はアンダーツインテールに結っていた。
しかしその身体は傷だらけで服もボロボロ、羽根には無数の穴が開いている。既に満身創痍であった。
「(ダメ……これ以上は持たないッ!!)」
妖精は覚悟を決め背後の兵達へと振り返った。息を整え魔法陣を構築、全ての魔力をその陣へと注ぎ込む。
「……純白の花園ッ 闇を断つ太陽の光ッ! 悪を穿つ槍と成れッ! 顕現せよ!!
聖級魔法! 光槍〈ホーリーライト・スピア〉ァッ!!」
廊下を埋める程の大きな一本の光の槍が魔法陣から顕現し、追手達を撃ち抜いた。
重く響き渡る轟音。
床や壁面を抉り廊下突き当たりの壁に大きな風穴を開けた。側面の窓ガラスもその勢いだけで砕け舞い散った。
最早、今の一撃で追手達は皆生き絶えた。
「よし! これならッ!」
側面の割れた窓からの逃走も考えたが、その外側には先程少女が組み立てた魔法障壁なようなもの張られていた。
唯一、逃走可能なのは正面の風穴のみ。
光の槍は城壁後方の魔法障壁をも貫いていたのだ。
妖精の体から発せられていた光は完全に失わる。今の魔法で完全に魔力も全て使い果たしていた。それでもやっとのこと見えた好機。最後の力を振り絞り全力で正面の風穴へ全力で飛行する。
唯一の出口へと手を伸ばし、穴の空いた羽で必死に羽ばたく。
「ッ――!?」
しかし後一歩のところで妖精の視界は一瞬にして暗黒に包まれた。
間髪おかず少女の足に黒い何かがまとわりつく。
もう彼女には、抵抗できる程の力なんて残っていなかった。
「ッ――ヒッ!? や、やめてッ! 嫌だッ……誰かッ……誰かぁぁッ……!!」
その黒い何かは足元からまるでスライムのように彼女の全身を覆い宵闇へと包み込んでいく。
「……ッ嫌……だッ…………誰か………助け……」
そんなわずかな抵抗も虚しく、少女の体は完全に闇に溶けて沈んでいった。
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