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11. 学び多い初地上でした


 お父さん達はそのまま村から飛び降りた。

 木や枝をつたうことはなく、時折見えない足場を蹴り飛ばし降下していく。これが技能『空蹴り』だ。本当にこの世界の猫はすごい技術を持ってるなぁ、と感心しながら能力「上感覚」でこの技能の感覚を覚えておく。



 風が心地いい。空も雲ひとつない快晴。地上に向かうにつれて気温も暖かくなっていくのを毛肌で感じる。


 それと降下中だとより分かりやすいけれど、村の大もとである大樹は数百メートルほどに育っているのに対して他、村の周辺に生えている木々は僕の常識内に収まっているほどの大きさしかなかった。一体どういう植生してたらこんな現象になるのか不思議なものだ。

 


 まぁ猫が空蹴ってる時点で不思議な世界ではあるんだけど。



 それからいくらか低空を駆けた後、僕たちは地上に降り立った。草木が生い茂る森の中。お父さん達は慣れたもので音も立てずに地面におり、瞬時に技能『隠密』を使っていた。僕もその技能は使えるからみんなに合わせて使ってみる。



 ここからが本番だ。僕も気を引き締めないと。

 そう思っていると豹柄のお兄さんはこちらを見てから何か安心したような感情を抱きつつ、みんなに目配せをし静かに歩み始めた。



『……茶の兄貴。やっぱまだ地に足つけんのには若すぎやしやせんか?』



 少し歩いていると豹柄のお兄さんがそんな事を呟いた。僕たちには明確な言語が存在しないため名前もなく、個人を伝えるには柄や瞳の色でイメージを伝えるのが主流だ。


 お父さんは『茶の兄貴』で僕は『茶の息子』とイメージされることが多い。

  


『生まれて四ヶ月少しだったな。親バカが過ぎる、と俺も思っていたんだがな』



 そう返してくれたのは戦士長の黒猫。いつでも凛々しい姿がとてもカッコいい。



『黒の兄貴は買い被りでねぇと?』

『あぁ。この歳で空蝿〈スカイフライ〉を仕留められる奴なんて俺は聞いた事もねぇ。しかもあの蝿の技能『反応速度強化』まで覚えちまうような奴だ。今だって何も言われず『隠密』まで使えてやがる。将来は俺の後釜にしても良いかもな』



 そんな黒のお兄さんの意思にお父さんは少しムッとするような感情を向けた。

 


『待てよ黒の兄貴!コイツをこの村だけに留まらせとく気か?この村どころか獣人国すら目じゃない器だろうが!』



 お父さんは自慢げにそう語ってみせる。正直そういうのは僕のいない所でしてほしい。感覚の能力のおかげでものすごく恥ずかしい。

 そんなお父さんの様子に豹柄のお兄さんは呆れながら鼻で笑ってみせる。

 


『ハッ!俺ら化種族、獣人のマガイモノが夢見すぎだって』

『言ってろ。コイツが獣人国のトップに立った時後悔すんのはお前だぞ豹柄。なぁ?』


『そこで振られても困るんだけどなぁ……あはは』


『今は将来よりも目の前の狩りだ。集中しろ。茶柄も能力持ちの芽は摘みたくはないだろう』



 そうこうゆるい会話をしていると灰柄のお兄さんは足を止める。その視線はいつも鋭いけれど今は特にそう感じた。僕も神経を尖らせなければ。

 


 そう思い立ち能力全開で感覚を研ぎ澄ませ気がついた。

 


 地面をズルズルと這うような音。おそらく全長十数メートルはくだらない大蛇がここ周辺に潜んでいるようだ。お父さんから伝わる地面の感覚的に北西方向。ここから五十メートルほど先か。

 

 しかしここら周辺、小さい生物もうじゃうじゃいるようでカサカサとした音に耳や体が痒くなる。

 またそれとは別で生き物とは違う、何か空気が抜けるような音も微かに聞こえる。とても自然に発生するような音とは思えないんだけど、僕の鼻や肌から周辺毒っぽい空気は一切感知はできない。

 いや、毒ガスではないけど地面付近から冷気が吹き出してるところがある?もしかしてそういう性質の植物とかがいるのだろうか?

 

 流石にあの村と比べると森の中では情報量が多すぎる。その割に僕自身世界に対する理解度が低いから頭の中で確証も得られず何ともモヤモヤする。

 


 でも、この中で今すぐみんなに伝えるべきものとしたら……



『……大きなうねり。この近くになにかいる……』

『おーこりゃすげぇ。地に足つけてなくてよく分かるもんだ。んでも、やっぱまだ子供だな』



 褒められたと思ったけど、何か可愛いものを見る様に笑われた。僕的にはこの地面を這いずる音以外には特に大きな危険はないと思うんだけどなぁ。

 これがただの蛇であっても十分脅威、更に魔物であったのならばこの場から即座に離れるのが一番丸いと思うんだけど。



 そんなこと考えていると、お父さんの体からまた変な反応を感じ取った。

 


 まるで体内で何かが蠢いているような感覚。「消化できないものを無理やり消化しようとしているような感覚」とでも言えば良いのだろうか。明らかに自然の体の働きとかじゃない。


 これは予想でしかないけれど、体内を『変化』で弄ってるっぽい?そうだとしてどうして今そんなことをする必要があるのだろう。



 それにもしそんなことが可能だとしたら、今後できることのできる幅がかなり広がりそうだ。どんな効果なのかはわからないけど僕の能力なら再現は可能なはず。折角だしこの感覚も覚えておこう。


 僕がそうこう考え込んでいると、お父さんは僕に向けて意識を向ける。



『なぁ息子よ。大きいもの程強いっていうのは間違ってはいない。だが、この森に置いてはそれよりもっと恐ろしいもんがあるんだ』


『……それより恐ろしいものって?』


『小さな大群だ。小さいものでも数群れれば大蛇の一匹や二匹なんて軽々しく貪り尽くされる。特に毒持ちなんかは小さいのでも十分脅威だ。俺らの足元を見てみろ』



 お父さんの足元を確認してみる。音で感知していた通り、地面には気持ち悪いぐらい蟻がウジャウジャと蠢いていた。


 この蟻がそんなに危ないのだろうか?

 とも思ったけど、そういえば元の世界でも危険な蟻っていうのは存在した気がする。顎の力が強くて人間でも激痛を伴うような毒を持っているという蟻が海外にいるとかなんとか。


 しかしこれで何となく合点がいった。

 つまり、お父さんから伝わってきているこの感覚は『毒に耐えられる体』への変化ということなのだろう。



『こいつらぁ『毒痺蟻〈パラリシス・アント〉』。頭がくらくらしたり、体が動かなくなるような毒やらをぶち込んでくる奴らだ。基本群れて行動するが単体でもその危険度はそれなりにたけぇ。んまぁ俺らは慣れてっから問題はねぇし最悪ここらの解毒草食っとけば死ぬこたぁないから安心しな』


『だ、大丈夫なんですか皆さん。というか動かなくて良いんですか?』


『対策はすでに済んでいる』



 対策?一体何をしたんだろう。お父さんも耐性の変化以外は何もしていないし技能も使ってないように思えるけれど、もしかして、、



『…この冷たい空気。何かの道具なんでしょうか?』

 

『お前よく気づけたなぁ。その通りだ。こいつの毒は売り物になるからな。巣ごと凍らせて持ち帰るんだよ』



  豹柄のお兄さんは僕の意思に感心するような反応を見せていた。


  初めに感じた空気の抜けるような音と地面を漂う冷気。それがどうしても自然発生する音に思えなかった。さらに豹柄のお兄さんは色々と道具も持ち歩いていることから何となくそう感じたのだ。この能力、何となくでも大抵当たるから便利な物である。

 


『だが豹柄。このアイテム毎回思うが時間かかるな。どうにかならないのか?』

 

『そう言わないで下さいよ黒の兄貴ぃ。毒が売り物になるっつってもそう高値はつかねんだ。人間との交渉だって骨が折れるしよぉ。俺らぁ変化で体質変えて耐性つけられるんだ。我慢しねぇと』


『あのー、結局蛇は大丈夫なんですか?』



 その問いかけにお父さんは嬉しそうな感情を浮かべた。



『言っただろ?怖いのは大きな蛇より小さな大群。ここらには毒持ちの小物が多いからな。蛇もこっちに構っちゃいられないのさ』


『…そ、そんなもんなんですねー』


『あぁそれよりここらには『毒痺蜘蛛〈パラリシス・スパイダー〉』もいるからな。上にも注意しとくんだぞー』


『…わかりました。ありがとうございます』



 そして冷気を発する道具の効果が行き渡ったことを確認すると灰柄のお兄さんは人間へと姿を変えた。

 


 これが僕の追い求めていた方の『変化』だ。

 


 どうやら完全な人間になるというわけではなく、尻尾や猫耳などは残った所謂獣人のような姿になるようだ。髪色は毛並み色のままで目も鋭いまま。灰色のお兄さんは凍りつく地面を掘り上げどこか見えない空間へと格納した。


 しかし、目で見ただけだとやっぱり再現するのは難しそうだ。お父さんが変化してくれたら、僕の能力で覚えられそうなんだけど、そもそも今僕は猫形態のお父さんの背中に乗って地上を探索しているわけなんだし望み薄か。



 でもでもでも!!!これは良い傾向だ。お母さんやお父さんからの警告で一度は人間に遠ざかったわけだけど、これを機に覚えてみたいという好奇心を装えば、もしかしたらお許し自体は出るのかも?この際猫耳と尻尾は許容しよう。重要なのは撫で撫でできる腕なのだから!



『さて、狩りを続けるぞ』



 そんな僕の内心なぞつゆ知らず、灰色のお兄さんは人の姿でそのまま先頭を走り北西方向へと走る。どうやら感覚能力がなくともみんな大蛇の位置は掴めていたようだ。

 

 しかし、流石はこの世界で生きてきた先輩猫達。

 その大蛇の体には蟻や蜘蛛が群がっていた。こちらから手を出すまでもなく既に瀕死状態。一部骨身も露わになっていた。おそらく僕がいなかったらこの現場にすら足を運ばなかったのだろう。


 

 やっぱりこの世界、能力があるだけではダメだ。ちゃんと世界を理解しないといつか痛い目を見ることとなる。


 僕は唾を飲み、そう心に刻んだ。


最後までお読みいただきありがとうございます!


もし本作について「先が気になる!」「なんか面白いかも?」等思ってくださいましたら、『ブクマ』や下あたりにある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』にて評価をいただけましたら嬉しいです!

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