ペーターとジョン
ペーターは畑の真ん中にただ立っていた。
肩にはジョンが乗っている。
ジョンは日に三度ほど遊びに来る。
ペーターの肩や頭に乗り、偶に頭を掻いてくれる。
ペーターにとってジョンは友だちだった。
ペーターの友だちはジョンしかいないが、ジョンには友だちがたくさんいる。
ペーターが畑に立つようになって暫くは、彼らは遠巻きにペーターを警戒していた。しかしある日、ジョンがペーターに近寄り、肩や頭に乗ってみせたのだ。それでも追い払う仕草もしないペーターに、ジョンの友たちも警戒を緩めたようだった。
ペーターには生みの親がいる。
生みの親なのだから、母と呼んでいいだろう。
ペーターは生まれてすぐに畑に置き去りにされたが、母は日中は側にいてくれる。
偶にタオルや帽子を掛けてくれる。母がよく使っている道具を手に持たせてくれたこともある。
ジョンと仲良くなって暫くすると、母は困ったような顔でペーターを見ることが多くなった。
そしてある日、家に連れ帰ってくれた。生まれて初めてのことである。
家に着くと、母はペーターに化粧を施し新しい服を着せた。化粧は目を大きく際立たせたもので、服は光をキラキラと乱反射したり風でヒラヒラとそよいだりした。
ペーターは独創的なオシャレさんになった。
母は少し不安そうにペーターを見回した後、ペーターを再び畑に立たせた。
立つ場所も変わり、ペーターも新鮮な気持ちだった。
暫くすると、ジョンたちがやってきた。
ペーターの変貌に戸惑い、警戒しているようだった。
ペーターは寂しく思ったが、またすぐに近寄ってきてくれるだろうとも思った。
ジョンが、じっとペーターを見ていた。
恐がっているようには見えなかった。
それから、いつまで経っても、ジョンはペーターに乗ることはなかった。
見える位置にはいるが、近寄ってはくれなかった。
母は満足気に、その立派な髭を擦って言った。
「良かった。コレでだめならお役御免かと思ったが、まだ役に立ちそうだ」
ペーターは畑の真ん中にただ立っていた。
頭から、ジョンの残した種が芽を出した。