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王都へ

「魔獣が現れた時、残念ながら私はその場におりませんでしたが、目撃した兵士達によれば通常の魔獣と異なり、その眼は赤く輝いていたそうです」

「「っ!?」」


 言葉を(さえぎ)ってカイラがそう告げた瞬間、ジェフリーは息を呑み、エマは思わず立ち上がった。


「それは本当ですか!?」

「? はい。複数の兵士が同じように証言をしておりますので、間違いありませんが……」


 二人の反応が予想外だったのか、カイラは不思議そうな表情を浮かべる。

 ただ、この二人が王都に出現した魔獣について、何かしらの情報を持っている。カイラはそう確信した。


「……やはり、ジェフリー殿には何としてでも王都に来ていただかなければなりません。できれば、そちらのエマ殿も」

「え……? 私もですか!?」


 自分を指差し、驚きの声を上げるエマ。

 そんな彼女に、カイラは静かに頷いた。


「ま、まあ? ジェフさんと一緒に王都に行くというのは、そのー……やぶさかではないですけど?」


 何故か少し嬉しそうに、エマは上目遣いでジェフリーの顔を(のぞ)き込む。


 だが。


「………………………」


 ジェフリーは一切反応することなく、口元を押さえ眉根を寄せた。

 王都に出現した、赤い眼を持つ魔獣。それがもし、ジェフリーの知る魔獣と同じ類のものなのだとしたら。


「……エマ、留守を頼めるか」


 エマを見つめ、ジェフリーが告げる。

 先程までのどこか頼りなく、おろおろとする姿はどこにもない。


 何か思惑があり、カイラが自分を王都に連れて行こうとしていることは、充分に理解した。

 どんなことが待ち受けているとしても、そういうことなら王都に行かなければならない。


「絶対に嫌です! ……って反対したいところですけど、仕方ないですね……」

「すまない」


 肩を落とし項垂(うなだ)れるエマに、ジェフリーは深々と頭を下げた。


「いえ、お二人一緒に来ていただいても……」

「そうわけにはいきません。……ジェフさんの留守を預かるのは、私だけの特権(・・)なので」


 打って変わり、エマは冷たい表情で告げる。

 これだけは絶対に譲らない。そう言わんばかりに。


「……分かりました。私としても、ジェフリー殿に来ていただければ目的は果たせます」


 これで、ジェフリーの王都行きは決まった。


 ◇


「エマ、留守中のことは任せたぞ」

「分かってますよ。それよりさっさとその魔獣を片づけて、すぐ帰って来てくださいね。不在の間の分を含め、馬車馬のように働いてもらうんですから」

「は、はは……」


 エマにジト目で睨まれ、乾いた笑みを漏らすジェフリー。

 了承してはくれたものの、やはり彼女はジェフリーの王都行きを快く思ってはいないようだ。


「こほん……そろそろよろしいでしょうか」

「っ!? はは、はい! もちろん!」


 咳払いをして告げるカイラに、ジェフリーは(あわ)てて何度も頷いた。

 こういった落ち着き払った仕事ができそうな美女には緊張してしまい、まともに話すことも、顔を見ることすら満足にできなくなってしまう。


「へえー。ジェフさんもカイラさんみたいな美人だと、そうやって照れたりするんですね。……私の時は、全然そんなことないくせに」

「ななな、何言ってるんだよ!? お、俺は別に……」

「はいはい、もういいですから」


 あからさまに()ねるエマに絡まれ、ジェフリーは焦る。

 何せ、当のカイラを前にしてそんなことを言われてしまったのだ。このままでは王都までの道中、変な目で見られるに違いない、と。


 そんなジェフリーはさておき、エマは分かっていなかった。

 彼が美女を前にして緊張してしまうのは、カイラだけに限った話ではない。他の美女に対しても、同じような反応をしてしまうことを。


 むしろエマだけが、カイラに負けないほどの美女であるにもかかわらず、ジェフリーが気さくに接することができる唯一の女性であることを。


「と、とにかく、早く行きましょう!」

「かしこまりました」


 居たたまれなくなったジェフリーは、カイラに言って馬車を出してもらう。

このままでは、いつまでもエマにチクチクと責められ、たまったものではない。


「もう! ちゃんと王都のお土産忘れないでくださいね! ……それと、大丈夫だと思いますけど、無事に帰って来てくださいね」

「あ、ああ」


 最後のほうは聞き取れなかったが、手を振るエマにジェフリーは頷く。

 快く……というわけにはいかないが、なんだかんだ言ってこうして送り出してくれたのだ。お土産の一つや二つ、買って帰るとしよう。ジェフリーはそう思った。


「少しでも時間が惜しいですので、急ぎましょう」

「うおおおおおおお!?」


 カイラが御者に告げると、馬車がまるですぐにでもこの場から立ち去りたいと言わんばかりに全速力で走り出す。

 そのせいでジェフリーは思わず舌を噛みそうになった。


「も、もうちょっとゆっくり走ってもいいんじゃ……」

「いえ。ジェフリー殿には一刻も早く王都に来ていただき、色々と(・・・)していただかねばならないことがありますので」

「……一体何をさせる気なんですか」


 不穏なことを口にしたカイラを、ジェフリーはジト目で睨む。

 ギルドで出会ってからここまでのやり取りの中で、彼女が一筋縄ではいかない女性だということを充分理解したジェフリーだったが。


「大したことではありません。私の直属の上司である参謀長をはじめ、第二軍団の兵士達にお会いいただきたいのと、あとは……これはまあ、着いてからということにいたしましょう」

「不安で仕方がない」


 やはりろくでもないことが待っているようだ。

 ジェフリーは思わず頭を抱える。


「……あなた様のおっしゃられたとおり、食いつきましたよ。姫様」

「え? 何か言いました……?」

「いいえ、何も」


 呟きを聞き漏らし尋ねるジェフリーに、何もないとかぶりを振るカイラ。

 むしろ何かあるんだろと、ジェフリーは声を大にして言いたい。……カイラが緊張してしまうほどの美女でさえなければ。


 それはともかく。


「アイシス川の魔獣、か……」


 車窓から景色を眺め、ジェフリーが呟く。

 カイラの話によれば、赤い眼を含め見たことのないような魔獣とのこと。アイシス川でそのような魔獣の目撃例はこれまでなかったらしい。


(まあいい。肝心なのは、その魔獣が俺の思っている魔獣で間違いないかどうか、それだけだ)


 そう……ジェフリーにとって重要なのは、その魔獣こそジェフリーが求めてやまない存在であるかどうか。


 ――あの日(・・・)大切な女性(ひと)を奪った、あいつ等なのかどうか。


 王都のある方角の先を見据(みす)え、ジェフリーは拳を握りしめた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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