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同行を求める

「残念ながら、ジェフさんには通用しませんでしたね」


 ジェフリーの手を借りて立ち上がったエマは、清々しくも寂しそうに笑う。

 この八年間で培った努力の成果と想いの全てを出し切り、果敢に挑んだエマ。


 だがそれでも、ジェフリーに届くことはできなかった。


 一方、ジェフリーは。


(……これを経験した五年前よりも前だったら、俺が負けていたな)


 たった二度(・・)しかないが、エマと同じ戦闘スタイルの眷属(・・)と戦った経験のおかげで、勝ちを拾うことができた。

 それは彼女が、禁忌の森の上層すらも超える実力を備えているという事実に他ならない。


「仕方ないので、私は大人しくお留守番をしています。ジェフさんが抜け穴を調べてる間、ギルラントと禁忌の森は任せてください」


 豊満な胸を叩き、エマは気丈に振る舞う。


 本当は、ジェフリーについて行きたいはずなのに。

 本当は、ジェフリーに認めてもらいたいはずなのに。


「あー……それ、なんだがな……」


 ジェフリーは指で頬を()き、エマを見やると。


「エマ、今回は俺と一緒に同行してくれるか?」

「っ!?」


 おずおずと告げるジェフリーの言葉に、エマは思わず息を呑む。


 先程の試合で、エマの実力を充分に理解した。

 彼女ならば、決して赤眼の魔獣に敗北を喫することはない。それはつまり、ジェフリーにとって大切な人(・・・・)を奪われる心配がないということ。


 もちろん赤眼の魔獣……いや、眷属(・・)は、常軌を逸した強さを有している。

 それこそ、特別な種族である竜族すらも凌駕してしまうほどに。


 それでもジェフリーは、エマを守り抜けると……背中を預けても構わないと、そう判断したのだ。


 エマは、これまでジェフリーが禁忌の森で起こる全てについて、誰かに委ねたりはしないことを知っている。

 赤眼の魔獣が驚異的な強さを誇り、そもそも対処できるものがいないという事情もあるが、彼自身が禁忌の森の一切に誰も関わらせたくないというのが最大の理由。


 今でこそジェフリーはエマに留守を任せることがあるが、それも異例のこと。

 それはエマの実力が黒曜等級冒険者……いや、それすらも凌駕するほどの実力を有しているからということに加え、この八年間で築いた信頼関係の賜物でもある。


 それでも、ジェフリーはそれ以上のことをエマに頼んだことはない。

 彼女に同行を求めたことも、それどころか同行を許したことすらないのだ。


 そんな彼が、ついにエマを認めた。


「あ……ああ……っ!」


 口元を押さえ、エマは声を震わせる。

 世界でただ一人の、誰よりも信頼を寄せる大切な人から必要とされた喜びで。


 こんなにも、嬉しいことがあるだろうか。

 こんなにも、幸せなことがあるだろうか。


 八年分の想いが(あふ)れ、藍色の瞳からぽろぽろと涙が(こぼ)れ落ちる。


「ちょっ!?」


 それを見て焦ったのはもちろんジェフリー。

 まさか調査の同行をお願いしたら、同僚を泣かせてしまったがために。


 ただでさえ自分が留守の時には、彼女に危険と隣り合わせの赤眼の魔獣の討伐とギルラントの防衛を任せている。

 いくらその実力を認めたとはいえ、さらに危険が待ち受けていることが必至な抜け穴の調査に同行させようというのだ。


 下手をしたら、これはパワハラ案件……いや、二人きりという状況を色々と勘違い(・・・)されて、セクハラ案件もプラスされてしまうかもしれない。ジェフリーは自分のしでかしたことの重大さに、顔を真っ青にした。


「あ、あああ、もも、もちろん、嫌だったら断ってくれていいんだぞ!? そ、その時は俺一人で……」

「行きます! どうか私を一緒に連れて行ってください!」:

「うおおおお!?」


 エマはぐい、とブラウスの袖で涙を(ぬぐ)うと、身を乗り出してジェフリーに訴える。

 彼女に訴えられた場合を考え、恐怖で生まれたての小鹿のように足をぷるぷると震わせていたジェフリーは、突然のことに驚いたこと、美しいエマの顔が思いきり近づいたことで、思わず尻もちをつきそうになった。


「そそ、そうか……エマが一緒に来てくれて、俺も嬉しいよ……」

「ぐす……私、絶対にジェフさんのお役に立ってみせますから……っ」


 鼻をすすり、(とろ)けるような笑顔を見せるエマ。

 ジェフリーはそんな彼女を見て、とりあえずは訴えられる心配はなさそうだと安堵するとともに、もし後で手のひらを返された時は額どころか首まで地面にめり込むくらい平伏して謝罪して難を逃れようと、心に誓った。

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