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一緒に連れて行って

「もう! 遅いから心配したんですよ!」


 すっかり陽も落ち、真っ暗になったギルラントの街。

 ギルドの入り口の前で待っていたエマが、帰ってきたジェフリーに駆け寄った。


「すまない。だが、ようやく見つけたよ」

「……やっぱり王都に現れた魔獣は、禁忌の森の……?」

「ああ、間違いない」


 ジェフリーはエマに誘われてギルドの中に入ると、椅子に座った。

 ギルド内に人はおらず、カイラも既に帰宅したようだ。


「禁忌の森の南東の区域に、大きな穴があったよ。それも、ご丁寧に幻影魔法で偽装してな」

「それって……何者かが、赤眼の魔獣の抜け穴を作ったということ、ですよね……」

「そのとおりだ」


 ジェフリーは頷くものの、逆に疑問が生まれる。


 そもそも赤眼の魔獣の存在を知っている者は、このギルラントでもごく少数しかいない。

 それに、禁忌の森は知ってのとおり危険な場所であり、ジェフリーやエマといった実力者でなければ、森の入り口付近で赤眼の魔獣の餌にされてしまうのがオチだ。


「……これは、最悪の事態も想定しておいたほうがいいかもしれないな」


 苦虫を噛み潰したような表情で、ジェフリーが呟く。


 周知のとおり、魔法が使える者……すなわち魔力を有している者は、世界でもごく僅か。

 アルグレア連合王国ではある程度(・・・・)の自由は与えられているものの、魔法使いは国によって管理されている。


 つまり、抜け穴作りに携わったとされる魔法使いの背後には、下手をすれば国の関与も想定されるということ。


「ですけど、さすがにその可能性は低いと思いますよ。赤眼の魔獣が王都に出現したということは、下手をしたら自分達の首を絞めることになりますから」


 エマの指摘ももっともだ。

 これが国の仕業によるものだとしたら、王のお膝元である王都に赤眼の魔獣を放つなどあり得ない。下手をすれば、王国を揺るがしかねない事態に陥ってしまうことは、想像に難くない。


「とすると、一体何者が……」

「分からないですけど、それこそクローディアさんに伝えるべきだと思いますよ。もし国が関与しているのだとしたら、王女であり王国軍を統括する彼女はきっと力になってくれます」

「そうだな」


 エマの提案に、ジェフリーは強く頷く。

 抜け穴を作った連中の意図が分からない以上、クローディアに知らせておかなければ向こうも対処ができないのだから。


「ところでジェフさんは先程、森の南西の区域で発見したって言ってましたけど、そうするとあのあたりに出現する赤眼の魔獣は……」

「ああ、中層の魔獣までだな」


 王都に出現した赤眼の魔獣も、禁忌の森中層で出没する青鱗の魔獣。

 もはや疑いようがない。


「つまり、森に抜け穴を作った連中は、森の中層でそんなことができるだけの実力者、ということですね」

「ああ……」


 禁忌の森の入り口付近に現れる赤眼の魔獣ですら、その実力は黒曜等級並。中層の魔獣となると、それよりも遥かに強い。

 そのような魔獣がうようよいる区域で、抜け穴を作ることができる者だと考えるなら、最低でも黒曜等級冒険者以上の実力はないと不可能。果たしてこの王国に、そんな者がどれだけいるというのか。


「いずれにせよ、あの抜け穴をこのまま放っておくわけにはいかない。誰の仕業かはひとまず置いといて、まずはどこに繋がっているのか、他に外に出た赤眼の魔獣はいないか、それを確認次第すぐに塞ごうと思う」

「そうですね……」


 ジェフリーの言葉に、エマはきゅ、と唇を噛んで(うつむ)く。

 二人の間にしばし流れる沈黙。


 それを破ったのは。


「……ジェフさん。私もご一緒させてください」


 顔を上げ、静かに告げるエマ。

 藍色の瞳に、覚悟と決意を(たた)えて。


「お、おいおい……今回発見した抜け穴を作った奴は、間違いなく只者じゃない。おそらく、中層の魔獣すら足元にも及ばないほど危険かもしれないんだぞ」

「もちろん分かってます」

「それに、お前まで留守にしたら誰がこの街を守るんだよ」

「そ、それは……」


 困惑気味のジェフリーの指摘に、エマが言い淀む。

 彼の言うとおり、ギルラントにおいて赤眼の魔獣に対抗できるほどの実力を持った者は、ジェフリーを除けばエマしかいない。


 それに、ジェフリー不在時の留守役はエマの特権(・・)

 今回の申し出は、八年間で培ってきたジェフリーとの信頼関係の放棄にも繋がりかねないのだ。


 でも……それでも。


「お願いします! きっとジェフさんのお役に立ってみせます! 決して邪魔になったりしませんから!」

「エマ……」


 深々と頭を下げ懇願するエマを見つめ、ジェフリーは眉根を寄せる。

 本音として、ジェフリーはエマを一緒に連れて行きたくはない。


 彼にとって禁忌の森や赤眼の魔獣は特別な存在であり、誰にも手出しをさせたくないという思いが強いというのもあるが、何より、エマを危険な目に遭わせたくないのだ。


 もちろんエマの実力を充分に理解し、ジェフリー不在時のギルラントを任せて赤眼の魔獣を食い止めてもらっている。つまり、それだけの信頼を彼女に寄せていることも事実。


 何せ、彼がここまで信頼した人間は、エマが初めてなのだから。


「……分かった」

「っ! ジェフさん!」

「だが、最低限自分の身を守ることができるかどうか、試させてもらう」

「は……はい!」


 いつになく真剣な表情で告げるジェフリーに、エマは笑顔を見せる。

 ひょっとしたら自分は、たった一人の大切な人の隣に立つことができるかもしれない。そんな期待と希望に胸を躍らせて。


「じゃあ、行こうか」

「はい!」


 ジェフリーとエマは頷き合うと、誰もいない暗闇の訓練場へと向かった。

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