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向けられる敵意

「諸君! こちらはジェフリー=アリンガム殿! ギルラントの冒険者ギルドで教官を務めておられる御方であり、私の唯一人の師でもある! アイシス川の魔獣討伐の助力をお願いし、快く引き受けてくださった! 皆の者、粗相のないように!」


 綺麗に整列した王国軍第二軍団の全兵士の前で、壇上に上がり紹介を受けるジェフリー。

 こうやって大勢の前に立つようなことなど皆無。小心者で田舎者の彼は、今すぐにでも逃げ出したい衝動にかられてしまう。


 特に。


「「「「「…………………………」」」」」


 兵士達がジェフリーへ向ける、懐疑的な視線。

 やはり彼等に歓迎されていないようだ。


 その最たるは、第二軍団の兵士達の先頭に立つ大柄な初老の軍人。

 腕組みをし、ジェフリーに向けあからさまに殺気を放っていた。


「先生、彼等に一言お願いしてもよろしいでしょうか」

「へ……? お、俺?」

「はい」


 既に敵意剥き出しの者もいる状況で、何を言えばよいというのか。

 しかもジェフリーにとって、大勢の前でのスピーチなど初めての(・・・・)経験(・・)である。失敗する未来しか見えない。


 とはいえ、このまま無言でいても地獄のような時間が終わるわけでもない。

 この状況から逃げ出すためにも、ジェフリーは意を決し、すう、と息を吸うと。


「え、えーと……はは、はじめまして。ご……ご紹介に預かった、その……ジェフリー=アリンガムと、言いましゅ!?」


 たどたどしく尻すぼみな上に、最後は舌を噛むというフルコンボの自己紹介。

 ジェフリーは穴があったなら今すぐにでも入りたかった。いや、むしろ自ら穴を掘って入るべきである。


「さて……諸君らが言いたいことはよく分かる。我が師ジェフリー殿の実力も知らないままでは、共に魔獣と戦うことなどできないと言いたいのだろう」

「「「「「…………………………」」」」」


 クローディアの言葉が的を射ていることを示すかのように、兵士達は無言でジェフリーを睨み、一部の者は頷く。


「ならば! ジェフリー殿が気に入らない者、背中を預けるに足らないと考える者は名乗り出ろ! (おの)が腕でジェフリー殿を存分に試すがいい!」

「おう! そのとおりだ!」

「俺だ! 俺にやらせてください!」


 兵士達が手を挙げ、次々と名乗りを上げる。

 新人教育のゴブリン退治から帰ってきたら美女にいきなり決闘を挑まれ、勝利したら王命だからと王都へ連れて来られ、挙句には兵士達からはこれでもかと嫌われ、こうやって自分を倒すのだと列をなす始末。


 ジェフリーからすれば理不尽極まりない一方で、この状況を作り上げたクローディアはといえば、思いどおりの展開になってほくほく顔である。


 思えば彼女は、教え子時代からいつもそうだった。我を通すために自分にとって有利になるように仕向け、逃げ道を塞いで思いのままに全てを奪うのだ。

 そう……クローディアという女性は見かけによらず、策士であり戦略家。王国軍の参謀長を務めていることも、ジェフリーは妙に納得してしまう。


 そんな彼女だからか、同僚のエマとはこれでもかというほど相性が悪く、顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた。


 カイラが殺到する兵士達を(なだ)め落ち着かせようとするが、このままでは暴動に発展してしまいかねない。ノーマンもノーマンで兵を抑えながら、クローディアではない誰かへと目配せをしている。


(これ、どうするんだよ……)


 クローディアをジト目で睨みつつ、ジェフリーがそう思っていると。


「静まれいッッッ!」


 耳をつんざくほどの大声で叫んだのは、先程ジェフリーに向けて殺気を放っていた初老の軍人。

 兵士達は途端に動きを止め、直立不動になった。


「兵達が失礼した。王国軍第二軍団長〝コンラッド=バークレー〟、ジェフリー=アリンガム殿との手合わせを所望する」


 兵士達が真っ二つに分かれ、その間をゆっくりと歩いてコンラッドがジェフリーの前に立つ。

 戦場で鍛え上げられた屈強な身体は、決して背が低くないジェフリーも思わず見上げてしまうほど。おそらく二メートルはあるだろうか。


「うむ、そうだな。軍団長であり、王国軍屈指の強さを誇る貴様が手合わせをするのが、ジェフリー殿の実力を示す上でも最適だろう」


 対峙する二人を見て、クローディアは満足げに頷く。


「は、はは……そのー、お手柔らかに……」

「それはお主次第じゃな」


 愛想笑いを浮かべジェフリーは右手を差し出すが、コンラッドは腕組みをしたまま鼻を鳴らして威圧的に見下ろすだけだった。

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