3-44 転生免許
「あ、あれなに?」エチワカが指差した建物は町の景観や他の建物とは一風変わっていた。
「あぁ、あれはギルドよ」マヨリは逃げ道を見つけたようにスルリと話題を展開した。「ギルドの管轄は武の国だから、武の国の様式が取り入れられているの。だからすごく建物が目立っちゃうの」
ギルドにはキョウトのような勇者風、いかにも冒険者のような人たちの出入りがある。
ギルドというのはたぶん「依頼を受けて達成したら報酬をもらえるんですよね」だと思う。
「そうですね。他にも町の警備にも当たってもらうことがあります。時々ゴブリンがやってくることもありますので」
「キョウトさんも何か依頼を受けるのはいかがでしょう。経験を積んで報酬を貰えるなんて良いではないですか」キョウトがどのレベルの能力かを知りたい。
キョウトは堂々と、毅然として答えた。「いえ、私にはシスターを護る使命がありますから」
護られたことがないのだが、と思いつつ「そうですか」と空にあっさり消えるほど感情がない返事をした。つまらなすぎる結果に腹も立たない。
キョウトはエチワカを抱きかかえながら胸を張った。キョウトは私がピンチの時、果たして助けることができるのか。私はあまり期待していない。
「そういえば、最近は同じような依頼が多いと噂に聞きますよ」
「同じような依頼?」
「はい。暗くなると、幽霊が街を徘徊するのでどうにかして欲しい、というものです」
「ユウレイ…?」
するとキョウトがヒャッと小さく声を上げた。あまりに頼りなく格好悪いものだから、私の頬が赤くなる。
そんな非科学的なもの…物語ならあるな、と改めた。
「幽霊というのは、体は透けて、足がなくて、宙を飛んだり、この世に未練があったりするやつですか?」
マヨリはあごに手を当てて、一つ一つ思い出しながら丁寧に答えた。「体は白く半透明で、足はあって…宙は飛ばなかったと思います。この世に未練があるかは分かりません」
マヨリの答え方は何か不審な部分がある。それはまるで「見たことがあるような言い方ですが」ではないか?
「えぇ。隠すようなことではありませんが、夜な夜な幽霊はこの町に現れます。特に危害は加えられませんが、それを気持ちよく思わない方々もいらっしゃいます」
「それでギルドに依頼がある、ということですね」
「はい、その通りです」
興味にそそられて私もその幽霊を見てみたいと思った。幽霊なんて見る機会がそう何度もあるわけではない。
それにしてもキョウトという男は心許ない。抱きかかえるエチワカがキョウトの頬をいくら叩こうが、表情が石のように強張ったまま。そんな石の頬はすっかり収穫時のトマトのように実っていた。
「幽霊が出るのでしたら、モノ見たさに観光客でも増えそうですね」私がそんな冗談交じりに言うと、マヨリは作り笑いで答えるのであった。
「その通りで、最近はそのような方々が増えていますね…」
私もマヨリに呼吸を合わせてハハハと乾いた声で笑った。
その後は沈黙しながらも、間もなく府に着いた。府はキンキラとは違い、役所のように大きい。誰でも入りやすいウェスタンドアで、人の行き来がある。どうやら一ヶ月も来客がないことはないようだ。
「ご案内、ありがとうございました」
「滞在されるならまた会うかもしれませんね。それではお気を付けて」
互いにペコリとお辞儀をして、マヨリと別れた。




