3-43 転生免許
何かの墓標か、それとも記念碑か。この場所は時間が止まっているかのように静寂で、無機質だが洗練されている。
女性は目を開けると集めた花を持って立ち上がった。
「あの、お聞きしても良いでしょうか」
「はい、何でしょうか」
「この町に来たばかりで分からないのですが、この像は何でしょうか」
女性は目を丸くし驚いた様子だったが、やがて微笑みながら教えてくれた。「これはこの町の『鎮埠』です」
「え、これが…」私の想像では、大きな広場の真ん中に、偉そうなモニュメントがあるイメージだった。こんな質素で小ぢんまりとした場所にあるものとは、まさか思わなかった。
「鎮埠を見るのは初めてですか?」
「えぇ、まぁ…」
「失礼でしたら申し訳ございませんが、天霊様が建てられたものですので、シスター様が知らないことがあるのか、と思いまして」
確かにそうだが「私たちは鎮埠の巡礼中で、まだまだ修行の身でございます」と答えた。
「それはそれは、それなら道の国からはるばるこの地に?」
「はい」
女性はペコリと頭を下げる。「長途の折、ご無事で何よりに存じます」
堅苦しい挨拶も何のその、私も少しは成長している。
「ありがとうございます。ちなみに、この町の府を探しているのですが、どちらにありますでしょうか」
「それならご案内いたしましょう。私の帰り道にございますので、遠慮なさらないでください」
私たちは彼女についていき、私が彼女と話している間、キョウトにエチワカを任せるも、エチワカは私の頭を触りたいようで、おぶるキョウトの背中で暴れて手を焼かせていた。
代わってあげようかとも思ったが、たまにはキョウトにも私と同じ苦労を味わって欲しい。
「それでマヨリさんはこの町ができてからずっとここにお住まいに?」
彼女の名前は『マヨリ』という。何とも穏やかで、人当たりの良さそうな愛らしい微笑みをする。
「はい。元は同盟の国の、もっと内側に住んでおりましたが、こちらに越して参りました」
「こちらにはお一人で?」
マヨリは少々言い渋る様子で「えぇ、まあ…」と答えた。さらに続けて「私の他にも多くの方や知り合いが同時期に移住したので、特に寂しさの微塵もございませんでしたよ」と顔にかかった雲がパッと晴れた。
ここがよほど気に入ったのか、利便性が高いのか、それとも元の住まいが良くなかったか。わざわざ引っ越してきた理由が気になったし、さっきの苦しそうな表情も気になる。「なぜこちらに越してきたのですか?」
「それは…」
見ただけで分かる、何かあったのだ。マヨリの横顔は、今にも崩れ落ちそうなほどに脆くて、それでも必死に何かを堪えているようだった。




