3-40 転生免許
「よし、いい子だ。説教はここまでだ」
これが説教だったのかは謎だが、とりあえず話はまとまって良かった。企院が馬車を出て行くところで私はふと免許のことが浮かんだ。
「あの、企院さん。私の免許を知りませんか?」
企院は馬車を覆う布に手をかけるのをやめて「あ?無くしたのか!?」と怒鳴った。「お前ってやつは…」
萎縮した私はシュンと小さくなる。
企院は胸元に手をかけ、一枚の何かを取り出した。そしてそれを私の胸元に投げた。「ほらっ」
私の手の中で踊るそれは、私の免許だ。
「お前があの集落でいなくなった時に拾ったんだ。お前からいつ切り出されるかと待っていたんだが…ソイツの面倒を見るから今回は説教はしないが、今度は無くさないように。迷子にもなるなよ」そう言い捨てると馬車からフワッと消えた。
馬車の外では「危ないですよぉ」と御者が戸惑っている。『元気の無駄遣い』は行ってしまったようだ。
この短時間で滝のような脇汗をかいたし、物語の世界も広がったように思える。そういえばキョウトは言っていた。かつて人間と魔物は戦っていた、と。戦いで死んでいった人たちの鎮魂を巡る旅、この子とは何か深い関係になりそうだ。
それにしても、いつまでも『この子』というのは煩わしい。企院がいなくなってから、隠れずピタッと私にくっつくこの子は大人しくジッとしていた。「ねぇ、あなたの名前は何と言うの?」
この子はグルルと喉を鳴らし「エチワカ」と答えた。
「エチワカちゃん?」
エチワカは猫のように尻尾を振り、ギュッと私の腕を抱いた。やはりその力は魔物なのだろう、少しの力でも大人に強く握られるようだ。
私はエチワカの頭をなだめるように撫でると、腕に走る痛みが少しずつ和らぐ。道は長くなりそうだが、エチワカには人の生活を少しずつでも、根気よく教えていかなければならない。
それも一旦は、すぐでなくても良い。私には確認したいことがある。それは企院から受け取った、この免許だ。さて、私のランクは…胸を躍らせてゆっくりと指で免許を滑らせた。「『駄』」
それは『並』にも満たず、キョウトより一つだけ上のランクだった。




