3-37 転生免許 ~次の町へ
荷が積み込まれ、企院の号令で馬車はキンキラの町を発った。あれから私のいる馬車には誰も訪れなかった。結局、この子も連れて行くのだろうか。
馬車から町が見えなくなるまで離れると、馬車が大きく揺れた。すると御者が「あぁ、危ないですよ」と悲鳴を上げた。
「何事もなかったろうに。気にすることはない」そう言いながら馬車に入ってきたのは企院だった。「邪魔するぞ。説教の時間だ」
「企院さん…」企院は馬車に飛び乗ってきたのだろう。「わんぱくですね」
「ハハハ。『元気の無駄遣いナナハちゃん』と揶揄されたものだ」企院は揺れる馬車上でも軽快に歩いた。「まずは」企院は木箱に足を組んで座り、この子を笑顔で見た。「おい、そのフードを取れ」
この子は私の後ろに隠れると、首を横に振った。
「あ?」
企院の顔は柔らかい太陽のようなのに、ドスの効いた声が私たちの背筋を凍らせた。私は顔を引きつらせ、ピリピリと電流が血管を走っているようだ。もちろんこの子もプルプルと身を震わせ、私に心臓がはち切れそうな音が届いてきそうだ。
企院はため息をつき「懐かれてるな、お前。どうにかしろ」と頬杖をついた。
笑顔の目の奥に潜む目つきは間違いなく鋭い。もしかしたら企院なりに子供を上手く扱おうと思っているのかもしれない。ただその笑顔は、むしろ妖怪に見える。
逆らったら何をされるか、でもなぜこの子はフードを取ることを隠すのか。
キョウトからは人間以外にもこの世界に住むいくつもの種類がいると言う。この子の肌の色は確かに人ではないだろう。正体がバレることにリスクがあるのか。
「ねぇ、私たちしかいないからフードを取っても大丈夫よ」私はこの子に優しく呼びかけた。この子はブンブンと首を振る。「あのおばちゃ―」
「あ?」
その声主を横目で見ると、不気味なほど崩れない笑顔で再び「なぁ、『おばちゃ』って誰だろうな」と猫撫で声で言うものだから、こめかみを思い切り殴られるような衝撃を受けた。
「…あの『おねえさん』は―」私は再び横目で企院を見ると、やはりあの笑顔で、もはやどの感情か読み取れない。
私の心情を受け取ってか、この子は震えた体でゆっくりとフードを取った。
「おぉ、よくやったな」
いやいや、全部企院の招いた結果である。




