3-36 転生免許
「―シスター、聞こえるか」
聞き覚えのあるその声は、馬車を囲む布一枚の向こうから聞こえる。
「おーい、シスター、聞こえるか」
それは背後から聞こえる。私は眠い目をこすり「尾張さん?」と聞き返した。隣のこの子は小さく寝息を立てており、私は起こさないように姿勢を正した。
「ああ、良かった。あまり長居できないから伝えると、手引には別の所で調査してもらうことになったから、ここを離れたんだ」
「うん…」改めて言葉にされると寂しさを思い出す。
「キミはこの町で起きた出来事を共有して欲しい」
「うん、分かった」私はつらつらと、この町が迷路のように入り組んでキョウトの案内で町の中心に行ったこと、キョウトから聞いた転生免許のこと、町の中心の様子と感想、府での体験、手引と会ったこと、この子との出会いと巡り合わせのこと―記憶をなぞりながら話した。
「オッケー。何もなさそうだし、無事に物語が進んでいるようだね。その調子で」尾張はいつもの棘を感じるが屈託ない口調で聞き流すように言った。
「ねえ、尾張さん。私、気になることがあるの」それはこの子が男たちに詰められて私が群衆の一人だった時の体験である。「明らかに私が注目されて…まあ、この格好だったからかもしれないのだけれど、あからさまに私を舞台に上げるようなことがあったの。絶対に起こるイベントみたいな、そんな感じ。これってどう思う?」
しばし返答を待ってみたが、代わりに風が馬車の布を叩いた。
「尾張さん?」私にはもう分かっている。尾張とはそういう人だ。ゆっくりと振り向くと、布に影もなく「いないじゃん」と思った通りに的中したことよりも、長々と独り言をつぶやいていた滑稽な私を想像して笑ってしまった。
隣のこの子は私の声で起きたようだ。そして両手に何もないことに気付くと、慌てて私の袖を掴み、寄り添った。




