3-35 転生免許
「あの、企院さん」私が尋ねると、聞いていないのか聞こえてないのか、彼女は近くの作業者に指示を出した。また「企院さん」と尋ねると、彼女は別の作業者に質問されて答えた。「企院さん?」
「なんだ!うるさいな。たまには怒らないように、と思ったから無視してたのに」
なんでも正直に言うのが企院の良いところだが、やはり無視していたことに少し淋しく思えたし、私のことも考えてのことなのだろう。しかし企院の力なくてはどうにもならないなと思っていたので「この子どうしましょう」と相談した。
「なんだ、お前に預けられたか連れてきたんじゃないのか」
「いえ、ついてきたんですよ。誘拐みたいに言わないでください」
「まあ、お前の日頃の行いだな。それで、その子をどうしたいんだ?」
「親がいるなら親御さんが心配しているだろうし、探して欲しいなと思って。ただこの子は『いない』って言うんです」
企院は鋭い目でこの子を見つめ、やがて同じ目線にしゃがみ、この子のフードを取ろうとした。
するとこの子は企院の手を振り払い、私の後ろに隠れた。
企院は目を見開いて、立ち上がった。「親がいないのは事実だろう」
「え?何でですか」
「お前はこの子と一緒に馬車に乗ってろ。『良い』と言うまで馬車から降りるなよ」企院は深いため息をつくと「後で説教だ」と丁度聞こえるくらいの声で言った。
鬼のような顔の企院を見た私は悪寒を感じ、「はい…」と口をパクパクと動かした。
「大丈夫ですか、シスター」キョウトは眉をひそめ、私を覗き込んだ。「俺は企院さんの手伝いをしようと思います」
私は力なく「はい、分かりました」と答えて、フラフラと馬車に向かうものだからキョウトに支えられながら送られた。
馬車に入り震えて座る私にこの子はくっついて座り、やはりギュッと私の袖を掴み直した。その震える手は私以上の不安を感じる。すると私が企院にやんやん怒られるイメージが薄まり、私はソっとこの子を抱き寄せて頭を撫でた。やがて私は歩き疲れで眠気に襲われた。




