2-5 ヴァンパイアの嫁
「だから物語を終わらせて利用してから『消滅』させる。終わらせたならその後の登場人物が居なくても問題ないだろう」
「じゃあ『消滅』させる意味は?物語が終わればいいんじゃないの?」
「確かにそう聞こえるかもしれないが、その後が大事なんだ。物語を終わらせることができても、終わらせた物語を壊すかもしれない。筋書通りの登場人物なら物語にしたがって物語の後も生きていくことだろうが、『自我』を持てば何をするか分からない。何をするか分からないから恐い。だから『消滅』させるんだ」
私には私が物語を壊すような力を持っているとは到底思えなかった。自我を持っているという意識もないし、それは空気を吸うようなものだと思うわけで、理解するということでもない。
「意味は分かるんだけど、『自我』があるというのは私はわからない。『自我』があるというのはどういうことなの?」
「その答えを出す前に、キミは何でこの世界を知りたいと思ったのか。それが『自我』を持つということだよ。物語の登場人物なら物語の役目を全うする。怪獣が現れた時だって、何で公園に来たんだい?アソコで現れるのはキミじゃない、主人公のはずだったんだ」
「主人公のはずだった?」私はあの物語では主人公ではないのか。
「キミはね、主人公の友達の親戚に当たる立ち位置だったんだ。つまりモブ中のモブ。なんでこんな立ち位置の登場人物がいるのか疑問なんだが、モブキング、いやモブクイーンが現れた時は僕もポカーンとなったよ。なんで主人公が現れなかったのかって」おじさんはさも愉快そうに手を叩いた。
私の脳裏に私が公園に舞い戻った時のおじさんの顔が思い浮かび、苦笑いが漏れてしまっていることだろう。しかも私の登場人物としての立ち位置が物語に必要な存在だったのか、どうも胸がモヤモヤする。
「とはいえ、どんな登場人物であろうと『自我』が芽生えれば『消滅』させる。それは絶対なんだ」
なんとも聞けば聞くほど嫌な気分になる話だ。ただここまでの話で私が『消滅』させられる理由が分かった。しかし別の話にはなるものの、私はその言葉を聞いて初めから違和感があった。それはおじさんが私のことをなんだと思っているのか。
「ずっと前から気になっていたんだけど―」
「何だい、その告白前の常套句みたいなのは」
「ち・が・う」おじさんはふざけるのが好きなのか、それとも嫌がらせなのか。だからそこのところもハッキリさせたい。「私のことを『消滅』させる、とか言ってるけど、なんで『殺す』ではなくて『消滅』なの?」