3-32 転生免許
馬車に戻るまでの道中のこと、私たちはあのフードの子がついに男たちに捕まっている所を見かけた。辺りにパンやリンゴが散らばり、その子はフードを取られるまいと抵抗していた。体を覆う大きなボロキレからチラチラと見える足の色、やはり異種に思える。
周囲の人は関心を持つが、それ以上近付く様子はない。そんな中、私はフラフラと現場に近付いていた。近くで事件の様子を見てみよう、助けよう、そんな関心ではなく、その子に対する興味が強かったのである。
うまく人混みに紛れて近づいたと思えば、男たちは見定めるように私を視界に捉えた。こんなにも人混みに紛れているのに、何か目立つ要素でもあったのか…
「おい、そこの『シスター』。俺たちに何か用か」
私が「あ」と自分の服装を見る間に、人混みはパッカリと二つに別れ、男たちまでの一本道ができた。キョウトを見ると、右左に視線が泳ぎ、丁度中央の私に焦点が合うと唇の端をピクッと動かした。
憐れな視線を四方から浴びて、少しの沈黙が聞こえてどうしようもなくなると、いよいよ私は傾くしか無いように思えた。「あなたたち、おやめなさい」
ズンズンと歩み寄り、大巨人のように仁王立ちで二人の男の前に立って見せた。
「なんだ、シスター」男の一人がぬっと立つと、天井から見下ろすようにして私を見た。
あまりの迫力に私は腰を抜かすところだったが、踏ん張り堪えた。「大の大人が二人でそんな子供相手にどうしたのです?」
「あぁ…コイツが俺たちの商品を盗みやがった。だから捕まえたコイツを町の中央に連れて行かなきゃならねぇ。そこで正しく裁きが下さらなければ、俺たちの腹の虫が収まらねぇ」
その子は地面に這いつくばり、フードを両手で押さえ込む。そのフードの奥は私たちの動向を心配そうに覗く赤い目がギラっと輝いていた。
「その子が商品を返してもダメですか?」
「あぁ。もう商品が傷んじまって売り物になんねぇ」
確かにリンゴは傷だらけ、パンはホコリまみれ、到底商品になるとは思えない。
こんなことをする必要もない。同情したわけでもない。盗んだその子が明らかに悪いのだし、知り合いでもないわけだし…しかし大衆に囲まれ、男二人に詰め寄られてるこの状況で、逃げ出したり、今更何もせずに踵を返すなどできるはずもない。そう、これはただの成り行きで、私は財布に手を伸ばした。「それなら、私がその商品を買い取ります」
男たちは黙り、目をパチクリと子供のように私を見た。
「どうなんですか?」私は語気を強めて二人を睨みつけた。
男は気付いたように商品を拾い集めながら「あ、あぁ。それは構わねぇがな、アンタ、こんなヤツを助けて何の得になる?」と首をひねった。




