3-30 転生免許
「なぜイスを作り始めたのでしょう」
「元々は読書をしやすいイスを作ることを目標としていました。ものづくりは性に合わなかったのですが、意外にも奥深く、いつの間にか作ることに熱中していました」
それだけの理由で団体が来ても十分なほどのイスを作るだろうか。奇行とも言えるが飛砂の言う通り、イスの一つ一つに確かな違いがあり、それは見習いが職人になる過程を示しているものだ。
ただ思うのは「なんかもったいない」だった。いつか府にあふれるほどのイスができることを容易に想像できたので「せっかくの商売都市なのですから、売ってしまえばいいのに」と付け加えた。
しかし飛砂は照れたように「いえ、私なんてまだまだ」と照れるようにして髪を掻いた。
聞くところ、飛砂はこの府にたった一人で任に就いていた。人目も気にせず、自由に過ごすことができたからこそ、没頭してイス製作に取り組めたのだろう。しかしこれほどのイスがあるのに、なぜ机が一つも無いのだろう。
私とキョウトは府を出て、馬車まで戻ることにした。きっとここに来ることもない。私は広場の噴水でクルリと回り辺りを見ると、あるものを見つけた。「キョウトさん、少しこちらでお待ち頂けますか」
「シスター、私はあなたをお護りするのが使命です。そのような命は受けられません」キョウトは使命感に駆られて息巻いている。
私はそこにある建物を指差して「お手洗い、ですが、ついてきますか」と頭を傾けた。
キョウトはみるみるうちに頬を赤くし「いえ、こちらで待ちましょう」と背筋を伸ばした。
「はい、待っていてください」私はタッタと弾むように走ってトイレに向かった。それはもう一つの理由があったからだ。トイレの物陰から見えた手まねきしたのはあの人だった。「手引さん、どうしましたか?」
「やあ、アミちゃん。気付いてくれて良かったよ」手引はニッコリと私を迎え入れた。「何事もないかい?」
二人きりの時だけだが、私の本当の名前を呼んでくれるのは手引だけだ。
「はい、問題ないと思いますよ」
「そうかい、それは良かった」
手引との会話は友達と話すようにリラックスして話せる。それだから少しばかり隙もできてしまい、常に周りに誰もいないことを確認してから話すことにしていた。キンキラまでの移動中は常に人がいることもあり、腹を見せることなんてなかった。
その手引を見ると、顔を曇らせて如何にもこれから良い話ではないことが暗に分かった。「実はシュウと話してちょっとここを離れなくてはいけない用事ができてね…その前にアミちゃんと会っておこうと思ってさ」
「離れる?それってつまり、別行動ということですか?」
「そうそう。私は別の場所で情報収集さ。アミちゃんは付き合いが長いシュウが担当、てことになった」
綴じ師という者が何者か、流石に理解があるつもりだ。尾張にはきっと跳ね返されてしまうだろうが、私もこの物語を綴じる一員だし、些細なことでも知りたい、何よりも仲間外れは嫌だ。「このキンキラで何か分かったとかですか?」
「そうだね。アミちゃんは『転生免許』って知ってるかい?」




