2-3 ヴァンパイアの嫁 〜居酒屋へ
確かに前の物語で怪獣に突撃したおかげでベタベタや臓物のニオイが体に染みついていた。だからって直接的な言い方で「汚い」「ニオう」なんて言わなくても良いのではないか。年頃の女子に対してデリケートな部分に土足で入り込まれた気分だ。
しかしそんな気分も、大きなお風呂、大きな富士山の壁画、なんとも雄大な気分を銭湯で味わえば、汚された心もキレイに磨かれるのであった。
私の服をランドリーで洗濯をしている間、おじさんから手渡されたスウェットに着替えて、銭湯の待合室でフルーツ牛乳を飲んでいるおじさんと合流した。
「やあ、キレイになったね」
おじさんの言葉にはトゲがある。
お風呂から上がると喉が渇く。おじさんが持っているフルーツ牛乳がとてもうらやましかった。私は願望をまなざしに込めた。
「じゃあ、行くよ」おじさんはビンをゴミ箱に捨てた。
やはりおじさんは敵なのかもしれない。私はおじさんを睨んだ。
「腹ごしらえでもしよう」銭湯を出て、今度は居酒屋に入った。おじさんはメニューをテーブルに広げるなり、言葉通りの目についた料理を指さして「とりあえず、チャーハンと唐揚げ、アジの塩焼きとウーロン茶」と店員さんに告げた。
居酒屋で、とりあえずで頼むものではないだろう。
私の前にメニューを差し出されて「わ、私もとりあえずウーロン茶で」と慌てて答えた。日本人の本質なのか、とりあえず、という言葉を付けてしまう。
オーダーを聞いた店員さんが立ち去った後に「何も食べなくて良いのかい」とおじさんは言うが、メニューを差し出されて数秒で何を食べるかなんて決められるものではない。
「後で決めます」
おじさんの正体というか、本性というか、性格が分かってきた。とりあえず我がままで自分勝手、自己中心的な性格に違いない。そして微々たる優しさも感じない。いら立ちも感じる相手ではあるが、聞きたいことが山ほどある。
おじさんが頼んだ料理を持ってきた店員さんにメニューを告げて一息つくと、腹の虫も落ち着いてくる。「ねえ、聞きたいことがあるの」
おじさんは料理をほおばりながら「何だい?」と答えた。