3-15 転生免許 ~金稼ぎ要員、ライラ登場
もはや日中は何をしていたか覚えていない。集落を練り歩いて、宿屋やレストラン、酒場を見つけた。暗くなると尾張は酒場の主人と何やら約束を取り付けてきたようだ。何を始めるか分からないのだが、私たちはその酒場の壁によりかかっていた。酒場はホールのように大きく、ステージもあり、大道芸や演奏家たちが次々とパフォーマンスを披露していた。
「ねえ、ライラさんって大丈夫なの?」
ライラと言うのは尾張のブックマークで、尾張いわくショーが得意なそうだ。私が心配しているのは彼女の性格なのだが。
「彼女なら問題ないよ。いよいよ次だ。よく見ているんだね」
ステージ上で緞帳が上げられ、スポットライトが一点に集中した。少し黒い肌、美しい黒髪、特徴的な民族衣装、彼女は踊り子だ。
ライラは泰然とした立ち振る舞いで、その姿だけで酒場の客の視線が集中した。どんなパフォーマンスでさえ騒いでいた客も風が止むように静かになった。
そしてライラはアカペラを始めた。張りつめた緊張の糸が私の胸に突き刺さり、糸が揺れるたびに体を震わせる。酒場の空気は一瞬でライラが飲み込んだ。ライラが手を打ち、ステージ前の席に陣取った荒くれものたちに合いの手を促すと、荒くれものたちは怖い顔をしながらも手をゆっくりと叩き始めた。
ライラはステージ上で歌いながら踊り始め、スポットライトが右へ左へ、彼女が手を叩くたびに客は合いの手をし、気付けば前のステージで演奏していた演奏家らがステージ脇で楽器を奏で始めた。
酒場は大きく揺れ始めた。
店内につるされたランタンがチカチカと明滅し、まるでライブ会場のように照らした。ライラはカスタネットを取り出し、演奏に合わせて弾むような音をタンタンと叩いた。さらにカスタネットを手にいっぱい取り出すと、客に向かって大きく放り投げた。その中の一つがステージから遠い私にも届くほどだ。
「お、叩くの?」手引は期待するように私を煽った。
私はライラが頭の上で大きく手を叩くタイミングと同じく、カスタネットを優しく叩いた。ただ恥ずかしかっただけなのだ。
しかし他の客に渡ったカスタネットは酒場のあちこちで楽しそうに音が跳ねていた。いつの間にか、酒場はライラのパフォーマンスで沸騰していた。
熱風がランタンを揺らし、騒ぎに駆け付けた人たちが酒場になだれ込んだ。客らも歌いだし、ライラはついに酒場をミュージカルにしてみせた。どこからともなく長い板が何枚か運ばれ、ステージから酒場中央の円卓に向かって即席の花道が架けられた。余った長い板はステージに放り込まれ、ライラは高く跳ねて見事板の上に着地した。
高くて乾いた音、軽快なリズムがライラの足で刻まれる。ライラは服の裾を摘まみ上げ、垣間見えるは目に見えぬほど早い足さばき、当たり前のように演じるライラはやがてタンバリンを持ち、中央の円卓ステージに向かった。
言うまでもない。もはや彼女はスターである。
いよいよ円卓上でフィナーレを迎える。演奏家は熱い汗を流しながらより激しい音楽を奏でる。それに応えたライラはまるで氷上を滑るかのようにクルクルとスピンを始め、観客はより盛り上がった。次々と箱やテーブルが円卓に放り込まれ、そのたびにライラは高く、さらに高く、天井近くまで飛んで見せた。ガタガタと揺れる土台の上で音に合わせてポーズを決めると、一番の歓声がワッと湧いた。拍手喝采の中、ライラは宙返りをし、まるで花びらのように舞い降り、ステージに戻っていった。金子が次々とステージに投げ込まれ、ライラは深々とお辞儀をした。




