3-9 転生免許
会話がない私と手引はたき火を見る以外することはなかったのだが、手引が話を切り出した。
「アミちゃんは二つ前の物語から来て、物語を綴じるのを経験したんだよね。どう、楽しかった?」
「え...と」私はルリが馬車に乗る様子がフラッシュバックした。そしてたき火が目に染みた。「楽しいということはなくて必死だった。この選択が正しいのかどうか分からなかった」
手引は一呼吸を置いて「選択か...私にもあったものだけど」とたき火の奥にあるさらに遠くを見つめた。「自分の想像していたものではないけれど、綴じてしまった、そんな感じかな」
「うん」私は意味もなく石をたき火の中に投げ入れた。
「そうか...」続けて手引も乾いた枝を投げ入れた。「たぶん、その経験から理解はしているかと思うけれど、今後こんなことがいっぱいあると思う。思い通りにいかない、だけどいい落としどころでまとめる。それが綴じ師として一般的なのだろうけれども、アミちゃんが思うやりたいことも組み込めるようになるといいよね」
「...うん」私は目を潤ませた。閉じたまぶたの裏には笑ったルリがいた。
手引は手をこすり合わせて手のひらを火に向ける。「寒いね」
フフッと笑った手引の顔を見ると、少し安心する。「手引さんも思い通りにいかないことばかりだったの?」
「そうだね。そんなことばかりだったよ」
また手引がフフッと笑った。
「だけど、どうやって切り抜けるかを考えたり、動いたりするのは楽しいよ。アミちゃんは理想追い人だと思うけれども、理想を捨てたら『ああなる』からそれは捨てちゃいけないよ」手引は親指を立てて背後の尾張を指差した。
尾張は倒木の上で器用に横たわり眠っていた。
「とはいえ、私も理想は追い求めたいけど、結局『ああなる』ことがほとんどだけどね」
「手引さんはロマンチスト?」
「ふふっ、そんなことはないと思うけれど、たぶんアミちゃんと同じ思いはあるんじゃないかと思う」
私は手引の内心を垣間見れたような気がし、つい顔に嬉しさがにじみ出た。それに共通の話題である尾張を知る人物でもある。しかし、やはり、私は気になる。思い切って手引に聞いてみた。「手引さんは尾張さんとどうやって知り合ったの?」
「あいつは私の師匠だよ。綴じ師の仕事を教えてもらったんだ」
「ああ、そうだったんだ」私はホッと胸を撫でおろし、緩み切った顔をした。
手引はニヤリと不敵な笑みを浮かべて「ははぁ、今まで気になってたのかな?」としたり顔で私を見た。




