2-2 ヴァンパイアの嫁
おじさんは手を私の額から引っ込めた。「チート婆、『消滅させるのはやめろ』というのはどういうことだ」
チート婆というのは何者なのだろうか。ただそのおばあさんはおじさんにとって、頭が上がらない存在であるというのはなんとなく察した。
「その娘はお前さんが今いる物語に関わっている。消滅させては物語を終わらせることができんだろう。ともかく、わしの嫌な予感もある。やめるのが賢明じゃろ」
「この子がこの物語に関わっている...?」おじさんは唸り頭を抱えたのだが、すぐに答えを出した。「分かった。とりあえず、今はやめるよ」おじさんは私から拘束を解いた。「チート婆、今はやめるが、何でこの子が物語に関わる人物なのかを分かり次第教えてくれ。この子は前の物語の自我が芽生えたキャラクターだ。本来はどこにも居てはいけない存在なんだ」
「うろたえるな...わしにもその娘の存在が分からんし、今後の動向だけでいうと、少なくとも今お前さんがいる物語に関わっている、ということしか言えん。また何か分かれば連絡でもするわい」
栞からツーツーという電話が切れた音がした。
私はまたもや助かったのだろうか。ただ私に残されたのは、自分の存在とは何者なのか、ということだ。チート婆も言っていたことだ。そしてこの物語に私は関わっている。初めて見た景色で来たこともないこの世界、どういうことだろう。
おじさんはまた唸り、赤い月を眺めた。おじさんも今の状況を把握できていないのだろう。
私はゆっくりと体を起こし、辺りを見回した。木々に囲まれており、森の中にいるのだろうか。広場のようにぽっかりと空いた所に私はいたらしい。空を見上げれば赤い月があり、まるで夜を支配する不気味さを醸し出しているが、美しくてずっと見てしまうほどの魅力もある。
私の目の前に手が差し出された。「ほら、立って」
先ほどまでおじさんは私を消滅させようとして、私はこのおじさんに敵意を抱き始めていたにも関わらず、私はおじさんの手を掴んで立ち上がった。少なくとも私が今後生きていくためにはおじさんが必要なのだろう、と直感的に思った。
「キミ、汚いし、ちょっとニオうからお風呂に行くよ」
おじさんに対する敵意が増大した。