3-2 転生免許 ~ゴブリンと鬼ごっこ
尾張が背を向けて走り出すのと同じく、私もすかさず鹿のように飛び跳ねて尾張の後に続いた。さすがに後ろを見る余裕なんてない。獣道でない所を精一杯に、尾張の轍を踏みながら全力で森を駆け抜けた。まだ追いかけてくる。だが私は楽しかった。あのヴァンパイアのお城近くにあったあの恐怖感ほどではない、ただの鬼ごっこのように思えていたからかもしれない。地面から飛び出した根っこに引っ掛かり、ちょうど頭にかかるくらいの高さの枝を払い、ぬかるんだ土に足を取られ、顔に蜘蛛の巣を引っかけて、ガラスを破るように草葉の壁をぶち抜くと、足場がなくなった。心臓が空に浮く。
「うっそぉ...」
目の前の景色も急上昇し、叫びも出ないまま地面に落ちた。たまたま柔らかい所に落ちたのでケガはなかった。尾張も同じように落ちたようで、近くの茂みに隠れて口に人差し指を当てていた。私はうなずき、まだ近くにいるであろう何者かの動向を耳を澄まして探ってみる。
茂みが騒ぐ。私が落ちてきたであろう所からざわめく。荒い鼻息が聞こえる。そして茂みからニュッと顔が突き出された。その顔はまるで憎しみに満ち満ちており、目は鋭く鼻は団子のように丸く緑色の肌、ゴブリンという名がふさわしい。ゴブリンは辺りを見渡すと、茂みの奥に消えていった。
「もう大丈夫かな...?」
「そのようだね」尾張は痛そうに腰を持ち上げ、体についた土を払った。そして近くの木が折れた切り株にゆっくりと腰かけた。「結構高い所から落ちたからね。ちょっと休もうか、はぁ」
「そうだね。私もちょっと疲れたかも」私は尾張から少し離れた所に座った。「ねえ、さっきのって、『ゴブリン』よね」
「おそらくそのようだと思うが...はぁ」
「『小鬼』と書いて『ゴブリン』よね?初めて見た」
「はぁ...」尾張は頭を掻いて憂鬱そうにため息をついた。
「ねえ、さっきから何なの、そのため息さ」何か聞いてほしいのか、かまってほしいのか、聞いていると私も憂鬱になりそうだ。
「最悪じゃないか、今回の物語の舞台は」
物語のジャンルの話であろうか。「きっとアレでしょ、『異世界』」
「最悪だね...」尾張はまたため息をついた。
「なんでよ。面白そうだし、ワクワクするじゃない。ワクワクしないの?」
「しないさ。こんな不自由でめんどくさい、ご都合主義に満ち溢れた世界なんて」
「ご都合主義...はどんな物語だって同じような気がするけれど、不自由でめんどくさいというのはどういうことなの」
尾張は財布からお札を取り出した。「これだよ。この『お金』が使えない」




