3-1 転生免許 〜そこは異世界
湿った土のにおい、見上げれば木々から伸びる枝葉の隙間から青い空が見える。
そして手が目の前を覆いかぶさる。
「そのままでいるんだ」
その低い声は聞き覚えがある。身がピリピリと緊張する、あの嫌な感じ。
「うん...」
尾張は栞を取り出し、電話のように耳に当ててチート婆と話し始めた。「もしもし、チート婆。あれから何かわかったかい?」
私を『消滅』させるかどうかの相談が始まった。私は前の前の物語の登場人物であり、私が『自我』が芽生え物語を壊す恐れがあるためである。前の物語でも尾張とチート婆は会話をし、その結果私は消滅を延期された。
「ワシから連絡するというに、まあ、ワシもお前さんに連絡する所じゃったが...」
「それで、どうなんだい?」
「結論から話すと、その娘を『消滅』させるのは今後やめるべきじゃろう」
「それはこの物語に関わっているからかい?」
「察しがいいわい。そうじゃ、その娘はお前さんが考えている通りの存在じゃろう。だから次の物語も、その次の物語も、その物語の『登場人物』となりえるだろう」
「そうかい」尾張は私の顔の上から手を下げて、髪を掻き上げた。「ありがとう、それじゃ」
どうやら助かったようだ。私は力が抜けたようにペタンと尻餅をついてその場に座り込んだ。ああ、空が青い。
森の奥から木々が呼吸する音が聞こえ、息吹が私の脇を通り抜けていく。揺れる葉の隙間から光のハシゴが次々とかかっていく。それはいつの間にか私の周りを包み込み、体が太陽のように温かい。
「何をやっているんだい」
私はすべての光を受け止めるように空を仰ぎ両腕を広げていた。そうツッコまれると恥ずかしくなるもので、誤魔化そうとしてしまう。「生きてるって感じがして、さ」
「生きてる、ねぇ」その言葉は私が登場人物であるという嫌味なのだろう。「おや、そういえば顔が戻ってるね。元の顔に」
「ホント?」私は自分の顔を触るが、変わっているなんて分からない。「尾張さん、鏡を貸して」
消滅させられそうになったのに、そんな尾張に慣れたり恐怖を持っていないわけではないがなぜか普通に話してしまう。私は確信していたんだと思う。あの時に消滅できなかった、それ以降は私が消滅させられることはないのだと。しかも尾張とチート婆との会話から今後も消滅させられることがなさそうで、さらに確信は高まった。
私は尾張に手を差し出すが、尾張の様子が明らかにおかしい。私の背後をジッと見ながら少しずつ後ずさりを始めている。嫌な予感、それは私もさすがに気付いた。だってその喉を鳴らす音が耳の後ろにあるのだから。




