2-49 ヴァンパイアの嫁
遠くで空気が振動する音が響く。これはどこかで聞いたことがある。ただ記憶が曖昧だ。
「名演技じゃないか」尾張は私の背後から近づき、嬉しそうに言うのだった。「物語を綴じることに成功したみたいだ。物語の封鎖が始まったね」
そうか、前の物語では朦朧としていたからはっきりと覚えていなかったのか。本当に物語が終わるのか...
「ガモン君もありがとう。あそこで機転を利かせてメイドさんを引き付けてくれなかったら危なかったよ。もう上がってもいいよ」
「尾張殿の役に立てて良かったでござんす。それでは、また何用かあれば呼んでくだされ。では」玄関の扉のガラスがピカッと光ると、光は吸いこまれるようにして尾張が持つ栞に飛び込み消えた。「さあ、キミもご苦労さん。一時はどうなるかと思ったけど、本当に名演技だったよ」
尾張は賛美の拍手を私に送るのだが、私の怒りを沸騰させたに過ぎない。
「なんでそんなことを言えるのよ。人の気持ちも心も何もわからないの?人でなし!」私は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を手で拭いながら、尾張を怒鳴り睨みつけた。
「登場人物のキミには言われたくないな」尾張はあごを触り、ニヤリと笑った。「そもそも物語を終わらせるルリの行動、馬車に乗るように仕向けたのはキミの言動だよ」
私は息を呑む。私の言動...思い当たる節はあの時ルリに向かって言った言葉。「何かあったら行くから」。その言葉がどうして...
「キミは気付かなかったのかもしれないが、キミがあんなことを言わなければ、もしかしたらルリ君はキミに変わってほしいと泣きついていたかもしれない。彼女はああ見えて非常に憶病で、人に自分の嫌なことを押し付けようとする性格があった。馬車に向かう場面でもあの足取りではもしやと思っていたけど、キミが追い風を吹かせたんだ。彼女の罪悪感、すべてを背負う覚悟をさせたんだよ」
ルリの告白が頭をよぎる。罪を感じながら、それでも私には頼ってはいけないと選んだんだ。私は彼女の本当の気持ちを知らなかった。知らなかったからこそ、あの言葉がどれほど重く響いたのか、分からなかった。




