2-1 ヴァンパイアの嫁 〜殺される?
「ここはどこ?」私は見たことがない景色に驚いて思考が止まっていた。肺に入る空気も違うし、耳に聞こえる虫の声も新鮮だった。そして気付いた時には、おじさんは仰向けの私にまたがって手のひらを私の額に当てていた。
「それじゃ、お疲れ。前の物語ではどうもありがとう」おじさんはジッと私の目を見た。
「ちょ、ちょっと待って。なんで私が『消滅』させられなければならないの?なんで居てはいけないの?さっきは時間がないからとか言ってたけど、時間があるなら教えてよ」
「だからさっきも言ったように、キミの知るところではない。キミが『消滅』する理由なんて、居てはいけない、だけで十分だ」
おじさんは聞く耳を持たない。このまま私は『消滅』するのか。いや『死ぬ』のか。私は心の内からの叫びを声に出していた。「イヤだ!なぜ『死ぬ』のかも分からないで『死ぬ』なんてイヤだ!!」まるで子供のような駄々に聞こえるかもしれないが、人間の思いは難しい言葉なんていらない。
おじさんはハッとした顔で「『死ぬ』か...」とつぶやいた。
私は思い直したかと思い、今ならと体を精一杯振っておじさんの拘束から抜け出そうとするも、おじさんの力は先ほどより強くなったような気がする。掴まれた私の肩がより痛みを感じる。
「キミは自分が何者なのかを忘れて、自分が『死ぬ』とも言い出した。これはいよいよキミを『消滅』させなければならない」
わずかな抵抗は何も結びつかない。
そして目の前がまたあの光に覆われた。走馬灯の光とはこんな色なのか。私はいよいよ『消滅』してしまうのか。私の存在、私のいた物語とやら、まだ知らないことはたくさんある。赤い月が昇る空を見た時、胸が高鳴るようであった。これから起こる何かに、私はワクワクしていたのだ。きっとこれから楽しいことが始まる、そんな気がしていた。だからまだ、生きていたい、と思っていた。
まだ意識も遠のかないまま、聞いたことがないおばあちゃんの声が聞こえた。
「なんだよ、こんな時に」おじさんは光る栞を取り出した。
「お前さん、その娘を消滅させるのはやめろ!」