2-45 ヴァンパイアの嫁 〜疑うタケミ、ピンチのアミ
「お一人で、まるでどなたかとお話をされているご様子。そこにどなたかいらっしゃるのでしょうか」タケミは首を傾けて、疑問に思う仕草を演出する。
「そ、そんな訳ないじゃない。ずっと一人でここにいましたよ」追いつめられた、私はそう思った。
タケミは私に近づいてくると通り過ぎようとする。向かう所はお風呂場だ。
これは登場人物の行動なのだろうか。私の鼓動は一気に高鳴る。タケミを静止するにしても、ここで無理に止めるのは一人でいなかったことを告白したのと等しい。
タケミは風呂場の扉に手をかけようとした。
「タケミやーい。タケミやーい」
玄関先からイチカワの声が聞こえる。
「タケミやーい、すぐに来てくれないか。手伝ってほしいことがあるんだ」
タケミは玄関の方を振り向き、少し考えているようだった。怪しく思っているのか、何かしら後押しさえすれば動きそうな気がする。
「呼ばれているけれども、行かなくてもいいのですか」
タケミは私と目を合わせて「そうですね。すぐに参りませんと」と風呂場から離れていった。
間一髪だった。肝が冷えた。もしも尾張がいることがバレていたなら、どんな展開が待ち受けていたのだろう。私はなんとなく、物語の崩壊ということを想像していた。少しずつほつれていた物語は、きっと些細なことで壊れてしまうことだっただろう。
そんな中でイチカワの登場はなんとも運が良かったとしか言いようがない。
「後はキミがルリ君と入れ替わるんだ。ほら、行って」
タケミが玄関から出ていくのを確認し、私もリビングに戻った。リビングにいるルリは全てを把握しているかのように、滞りなく着ているものを交換した。その最中、私はルリに引き継ぎを始めた。
記憶をたどってできる限り克明に話した。お城で出会った人のこと、あの部屋のこと、私がお城から逃げ出したこと、お茶がとても美味しかったこと。それはつたない言葉でポロポロと出て非常に聞き取りづらかったかと思える。しかしルリは最後まで私の話に耳を傾けてくれた。
「分かったわ。ありがとう、ユリ。それじゃあ、次は私が...」
ルリからの引き継ぎが始まると、タイミングを見計らったかのようにタケミはリビングに戻ってきた。タケミは解せない様子でしきりに外を見た。
「用事は済みましたか」ルリはタケミにそう尋ねたのだが、先ほどユリとしてタケミに接した態度とは違い毅然としていた。
それにタケミは少々尻込んだ様子で答えた。「はい。イチカワさんに呼ばれたはずなのですが、何も用事はなかったようで...」
「そうですか。これから私がユリにお話することがあります。その間、席を外していただけますか」
「は、はい。承知しました」タケミから私が初めて会った時の素直さを感じた。「外でお待ちしておりますので、終わりましたらお声がけください」タケミは頭を下げ、リビングから出ていった。




