2-44 ヴァンパイアの嫁
廊下には二階へ上がる階段と四つの扉があり、きっと扉の一つはトイレなのだろう。ただ一人になりたかっただけだし、なんとなく近くの扉を開けた部屋は和室だった。家具が少ないがらんとしたその部屋には仏壇があり線香の匂いがした。仏壇に飾ってある写真には二人の男女の姿を見て私は察した。
仏壇の前に座り、線香を折って火をつけた。思ったより燃えてしまい、線香を振り火の勢いを抑えてから線香台に立てた。おりんを軽く叩いて手を合わせる。耳からチーンという音が消えるまで、まぶたの裏に両親の顔を浮かべた。所作はなんとなく「身に付いているもの」が自然と動作に現れた。
私は立ち上がり、静かに部屋を出た。
廊下にある残りの三部屋、次に入った部屋は洗面所だった。
特に意味もなく手を洗い鏡に映る自分の顔を見ると、本当にルリと顔がそっくりであるのを改めて認識した。深呼吸をして落ち着き、ようやく今後何をするべきか、どうやったらルリと入れ替わるか、考える時間を得た。
タケミを私とルリから離す方法、服も取り替えなければならないから着替える時間、そしてお城であったことを話して引き継ぐ時間...
きっと私だけが考えても答えは一向に出ない気がする。他の人にも意見を聞きたい。
そんな時だった。ふと耳にささやき声が聞こえる。空耳かとも思ったが、私は鏡の中の自分をジッと見た。花丸かもしれないと思ったからだ。
しかしそれは違う。鏡からではなく、お風呂場から聞こえるのだ。
「そのままで聞いて」
それは紛れもなく、待望していた尾張の声だった。
「尾張さん?」私は鏡の中の自分を見続けて尾張の言葉を傾聴した。
「ちょっと想定外な出来事が起こっているから、これからあのメイドさんを家の中から出そうと思う。キミは成り行きを見てルリと代わるんだ。分かったね」
「わ、分かった」タケミを外に出す方法、それはどんな方法なのだろう。しかし久しぶりに尾張の声を聞けて安心し、不思議と尾張の言葉が現実になるようなそんな気がする。根拠など全くないのだが。
「どうされたのですか」
私は別の声をする方を振り向いた。洗面所の入口に立つタケミの姿がそこにはあった。




