2-40 ヴァンパイアの嫁
「あ、ありがとうございます!」
「キミが親族思いなのは分かったよ。ゆっくりしてくるといい」
「はい!」
無事にミッションをクリアできて、ホッと胸を撫でおろす思いだ。先ほど我慢したワッフルに手を伸ばし口にほおばると、バターの香りが鼻から抜けて口の中にふんわりとレモン風味の甘い味が広がる。しかし少し口の中が乾く。
私はヴァンパイアに不信感を持っていた。それは数日間のタケミらの私に対する監視行動はヴァンパイアが指示していたのではないかと思ったからだ。だから今日の面会というのも何か企みがあるのではないかと警戒していたのだが、ヴァンパイアの人の好さに警戒心が少しずつ緩み始めた。敵地一人という心寂しさも、ヴァンパイアの存在が紛らわしてくれむしろ親近感が湧いてくる。
しかし私が紅茶を飲もうとしたその時だった。
ヴァンパイアはティーカップを手に取り、カップの縁をさすった。「ただし、次の満月の日の前日には戻ってくるのだよ」
私はつばを飲んだ。ヴァンパイアの低くて重い声がおへその上あたりで響き、ゾクッと脳を震わせた。震える指先を必死に抑えて、ティーカップを落とさんと力が強く入る。
体を縛られた状態で頭を撫でられたような、おぞましさを感じた。私はこう言うしかなかった。「は、はい...」
ヴァンパイアは大きくうなずいて言った。「今日はこれまでにしようか。キミはゆっくりとしているといい」
ヴァンパイアが立ち去った後でも、私は解放された気持ちにならなかった。結局のところ、このお城は魔物が棲む森に囲まれた陸の孤島であるわけで、私は明日の朝に町へ行くまではおとなしくしていようと誓った。
私が考えていたこの物語の終わらせ方は、根底からずれていたのかもしれない。




