2-38 ヴァンパイアの嫁
私が言ったことはさも忘れ去られたかのように、別の話題にすり替わった。言ってはいけないことだっただろうか。気に触れてしまっただろうか。それとも別のこと...?
この世界は三すくみで成り立っているようで、成り立っていない。町に住む人、魔物、ヴァンパイアのどれか欠けてしまえば、ヴァンパイアの存在は不要になる。人間がいなくなればヴァンパイアは適合者がいなくなるので生きていけなくなり、魔物がいなくなれば人は適合者をヴァンパイアに差し出す必要はなくなる。しかしヴァンパイアが人を支配してしまえば人は適合者を差し出さざるを得なくなるだろう。
なぜヴァンパイアは人を支配する動きを見せないのか。この世界では魔物がいることで、一種の崇拝される存在となっているわけで、しかし、やはり、ヴァンパイアはそんな気を見せない。魔物がいなくなったとして人間から必要とされなくなっても、気が変わるのだろうか。
「ヴァンパイア様は町に住む人たちがお好きなんですか」
「ああ、好きだよ」ヴァンパイアは間髪入れずに答えた。その言葉には嘘がない、笑顔が無邪気で可愛くも思えた。「彼らが作るものはなんでも良いし、食べ物もおいしい。気が利くし、イチカワやタケミもそうだが、とても優しいんだ」
私はこの言葉が物語を進める上でのきっかけだと思った。
しかし花丸が届けてくれた手紙、ルリからの手紙の他、尾張からの手紙もあった。尾張はルリをヴァンパイアの元へ送り、私を回収して物語を終結させようとしている。それでよいのかという疑問をこの数日考えていたのだが、そんな中途半端な終わり方でよいのかと考えた。
ルリからの手紙ではルリは適合者、だから問題ない。そしてルリの研究を私が引き継ぎ、適合者選定の精度を上げる、そんな引継ぎを任せられた。
それも大事だが、三すくみを崩してみんな平和に暮らす世界という道もあるのではないのか。
私の考えていることはきっと尾張の意からそれているだろう。進行方向は同じだが、目的地が近いかどうかの話で、各々の納得できる綴じ方の話。物語は所々に終わるチェックポイントがあり、終わらさなければ終わらない。私は選べるのであれば最善の終わり方で終わらせたい。尾張に私の意見が通るだろうか。
「たまには町にお出かけされないのですか」
ヴァンパイアは微笑み「彼らは私を恐れるんだ。畏怖させては申し訳ないだろう」と答えた。微笑んではいるもののその目は寂しく、赤い瞳は森の奥の町を見据えていた。




