2-37 ヴァンパイアの嫁
「お招きありがとうございます」
「お座りなさい」ヴァンパイアは赤い飲み物をグッと飲み、口元に残った飲み物をペロッとなめた。その時にチラッと見えた長く鋭い八重歯は赤い月に照らされキラッと光った。
私はロッキングチェアに座ると、ゆりかごのように前後に揺れてなんとなく心地良くなり楽しくもなる。
二人の間にあるテーブルの上にはティースタンドがあり、ケーキやワッフル、マカロンが乗っていた。タケミは私にティーカップに紅茶を注いだ。その色は赤く、赤い月に染められてまるでまるで血のような色だった。
すっかり目を輝かせている私に気付いたヴァンパイアは「好きにお食べ」と促した。
私は一瞬気持ちがパッと晴れやかになったが、「ヴァンパイアに話すことが先」と私の中の天使がささやき、首を振って誘惑を断ち切った。しかし右手は食べたことがないマカロンに伸びていた。葛藤にはきっと引き分けがある。
「この前は危ないところをお助けいただき、ありがとうございました」
「いや、構わないよ。キミこそケガはなかったかい?」
「はい、何とか大丈夫でした」初めて食べたマカロンは小さくてかわいいのだけれど、見た目倒しだなと思った。そんな私をヴァンパイアは微笑みながら見ていた。今度はワッフルに手を伸ばそうとしていたが、さすがに引っ込めた。
落ち着き和やかに私と会話するヴァンパイアからは、この物語の絶対的な存在を感じず、一人の『人』であった。人間らしい、というか私は彼をヴァンパイアという異色の存在だと思っていない。だからだろう、私は口からポロッとこんなことを言った。
「ヴァンパイア様は町に住まないのですか」
空気がピリッとした感じはしなかったが、夜のせいか冷えた空気が頬に触れた。そして時が止まったかのように静かになった。騒がしかった遠くの森も合わせたかのように沈黙した。そのおかげで森の向こうの町の喧騒が聞こえた気がした。
私は紅茶に手を伸ばし、ゆっくりとすすった。赤い月に照らされた紅茶は血のようだ。しかし紛れもなく紅茶で「おいしい」のだ。
「それは良かった」ヴァンパイアも紅茶をすすったその時、森は再びざわめいた。
「おかわりを召し上がられますか」
「お願いしようか」
タケミはヴァンパイアのティーカップに紅茶を注いだ。「ルリ様はいかがいたしましょうか」
あまりのおいしさに一気に飲み干した私は耳が赤くなったが「...お願いします」とティーカップに紅茶が注がれるのを見ていると笑みがこぼれる。




