2-36 ヴァンパイアの嫁 〜城での日々
私はヴァンパイアと面会する日までの数日間、城の中を探検したり図書室の書物をあさったり、高い見張り塔から森の向こうに見える町を眺めた。行こうと思えば行けそうな距離だが、視界に見える森が時々動くような、瞬きをするたびに景色が変わるような、その森は巨大な怪物の口のように見える。森の上を通る鳥は雲に届きそうな高さで飛ばねば、吸い込まれるように森へと墜落していく。
森の上を無事渡ってきた鳥は城の尖塔に留まって休んだ。
「ルリ様、こちらにいらしたのですね」タケミは見張り塔に行くための唯一の螺旋階段を上がり、そこからニュッと顔だけを出して私に言った。「そろそろ準備をされないと、ヴァンパイア様との面会のお時間に間に合いません」
「もうそんな時間ですか...」私はもう少ししたらという希望と、もう少しここにいたら何か見えるかもしれないという可能性を信じていた。数日前にお城を離れた花丸はまだ帰っていなかった。
「何か見えるのですか」タケミは私の横に立ち、私が見る遠くを眺めた。「それとも何か待っている、とか」
私はドキッとして身を翻し「いえ、町が恋しくて」と螺旋階段をゆっくりと降りた。
なんとなくな感じているのだけれど、このお城は変だ。私を監視しているような、私を探っているような、私に不信感があるのか、それは間違いなく軟禁された捕虜のような扱いであった。
だから私は気にするそぶりも見せずに、できる限り穏便な生活を送った。事を荒立てず、それが私がやるべき正解だと思った。
私はこの物語の登場人物で、物語を終わらせる方向に導かなければならない。
「支度が整いました。それでは広間に参りましょう」
鏡の中の私はこの前に着た和服姿と相違なく、自己評価でも可愛いと思う。しかしその顔は枯れた朝顔と同じ、元気なくしおれていた。いきなり鏡の私が話し出したりして、花丸が登場、みたいなことはないかと期待した。
タケミに案内され、まだ入ったことがない広間に入った。広間のさらに先、バルコニーに行くと日よけのパラソルの下にテーブルがあり、そこでヴァンパイアはロッキングチェアに座り、ゆったりと待っていた。
「やあ、来たね」




