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アミテイル  作者: Yah!結う湯酔~い宵
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1-4 VS怪獣

 「よし、あの黒い奴が相手か。ワイの拳一発でイカしたる!」と荒々しい言動なのは、誰よりも早く一歩を踏み込んだ血気盛んな拳闘士である。


 「まずは敵の技量を見極めるのが先決じゃ。いきなり飛び出すものではない」と拳闘士の腰回りを掴んだのは、筋肉隆々で上半身裸の大木のような山賊である。


 「『みんな』とはなんじゃ。わらわをこれらの庶民と同じに括るな」と他を見下す女王のような振る舞いをするのは、大きな弓を背負った狩衣姿の女性である。


 私の目から入る景色が虚ろな意識に流れ込み、いつもならまったく理解できない状況でも理解ができた。不要な意識が排除されているものだから、なんとなく向こうにいる黒い影が『敵』である。


 「それにしても、まがいモノじゃな...アレはなんじゃ」狩衣姿は弓をゆっくりと弾いた。


 「たぶん、僕の物語だ。アレを倒さなければ僕は終われない」


 黒い影は、というより黒い炎の中にうっすらと見える人の影は、ぼぉっとこちらを眺めている。ただ眺めているだけで動く気配がなかった。


 「アレはいいんだな、お前さん。やってしまっても」山賊は両手に斧を持ち構えた。


 「ああ、お願いするよ。アレを倒さないと他の物語を壊す恐れがある」


 「まあなんでもいい。ワイはもう行くべ」武者震いが止まらない拳闘士は雄たけびを上げ、誰よりも早く飛び出した。腰回りに付いたポンプから勢いよく煙が噴射すると、一気に加速を始めた。


 山賊は拳闘士の後に続き、狩衣姿は矢を離した。拳闘士は大きなモーションで拳を振り上げて、獣が食らいつくようなメリケンを繰り出した。黒い影に拳闘士の拳が当たったように見えたが、煙のようにふわっと揺れて当たらなかった。続いて狩衣姿の矢も黒い影の真ん中を確実に射貫いた、はずだったが、矢の軌跡に残った空気の波紋に黒い影が混じるだけで、矢は黒い影を通過した。最後に登場するのは山賊だが、山賊は足を止めて黒い影を眺めた。


 黒い影は煙がたなびくように姿を消すのであった。


 ようやく私の意識は眠りから起きたばかりのようにぼーっとするくらいまでに戻ってきた。まるで夢のような光景だったが、これが現実だと認識できた。「倒したの?」私はかすれた声でおじさんに聞いた。


 おじさんは私を無視してまた新たな栞を取り出し、栞から現れた男性と話し始めた。「タカハシさん、いきなり呼んでゴメンね。この辺りに僕のような気配がないかな。消えていれば良いのだけど」


 「やってみる」タカハシさんは耳に手を当て、アンテナのようにその場をクルクルと回った。時折腰をひねり、ぴょんぴょん跳ねたり、その姿は異様に思えた。拳闘士は笑っていたが、山賊と狩衣姿は私と同じ気持ちなのだろう、痛々しく眺めていた。


 「キミ以外は気配を感じられないですね」


 山賊と狩衣姿はタカハシさんと目が合うと、サッとそらした。


 「分かった、ありがとう」おじさんは栞をタカハシさんに向けた。するとタカハシさんはスルスルと引きずり込まれるように栞に戻っていった。


 山賊と狩衣姿はタカハシさんがいなくなったのを確認して、ホッとしているようだった。


 「またどこかへ逃げたのかな。この物語にいないなら良しとするべきか」おじさんは栞を三枚取り出した。「みんな、ありがとう。助かったよ」と栞を三人に向けて差し出した。


 「おう、また呼ぶがいいわ」


 「力が欲しい時に力を貸そう」


 「庶民の分際で、気軽に呼ぶのではない。先も言ったよう、庶民らと同じに―」


 三人はタカハシさんと同じく栞に戻っていった。


 「さて、ぼくはもう行かねばならない。早くしないと、せっかくできたリンクが切れてしまうからね」おじさんは空中に光る文字をなぞるように指さした。「キミを消滅させる時間もないし、キミがこの物語に居るというのは非常に不都合ではあるわけだが、しょうがないから連れていくしかない」


 まるで誘拐だった。私は腕を掴まれ、なされるがままに引っ張られると、気付いたら赤い月が昇る世界にいた。

第1パート終了


■登場人物(私からの目線)

・おじさん:痛アロハを着ていて、人が飛び出てくる栞を持っている。

・私:おじさんに「消滅」されそうになった。

・黒い影:おじさんは「僕の物語」と言っていた。

・拳闘士:武器はメリケン、めちゃくちゃ元気で猪突猛進。

・山賊:武器は両手斧、一番まともそうに見える。

・狩衣姿:武器は弓矢、偉そうにしていて一人称は「わらわ」。

・タカハシさん:ぴょんぴょん跳ねていた。

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