2-34 ヴァンパイアの嫁
城に戻り、すっかり汚れた服を脱いで、体の汗を流した。タケミが用意した服に着替えて、ふかふかのベッドに腰をかけた。落ち着く時間が持てたことで、生きている実感がある。タケミは温かいグリーンティーを持ってきた。湯気と共に立ち上がる茶葉が香しい。
「お怪我などはございませんでしたか」
「はい、大丈夫です」私はティーカップを手で包み込み、温かさを感じた。
まさに危機一髪だった。私の背後にいた正体は分からなかったが、あの時ヴァンパイアが現れなければ、きっと私はここにいなかったことだろう。思い出しただけでゾッとする。
「ヴァンパイア様はどちらに?助けていただいたお礼を申し上げたいです」
「後日またヴァンパイア様と面会する機会を設けております。本日はお疲れでしょうからお休みなさってください」タケミはペコリと頭を下げると、部屋から出ていった。
扉が閉まるのを確認し、私はティーカップを置いて天蓋ベッドに仰向けに倒れ込んだ。特に何も考えず、目に入った天蓋の裏側はこんな風になっているんだー、だなんて思うくらいだ。無音が聞こえる。
いや、考えることを避けているのかもしれない。
これからどうするべきか、どうやって尾張と連絡を取るか、この物語はどうなるのか…そんなことを放棄して逃げ出したいし、もうやめたい。なんか疲れた。
そもそも私は少し、ヴァンパイアに心が惹かれているのかもしれない。
命を助けられて、逃げ出そうとしたことを咎めずに、こんな豪華な部屋を用意してくれて休ませてもらっている。
私はこのままで良いのかもしれない。
目が閉じるのに抵抗できなく、ボーっと意識が薄れていく。
そんな時だった。便箋封筒が私の顔の上に落ちてきて、不意なことに体が浮いた。眠い目をこすりながら体を起こし、脇に落ちた白い封筒を拾い上げて差出人を確認した。だが表にも裏にも何も書かれていなかった。
「アミ殿」その聞き覚えのある声は化粧台の方から聞こえる。
私はベッドから飛び起きて、化粧台へ駆け寄った。「花丸さん!?」鏡には私が目の前にいないのに私が映っていた。それは紛れもない。「どこに行っていたんですか」
「拙者は一度、尾張殿の元に戻っていたでござんす。それでその手紙を預かり、アミ殿の元へ再び馳せ参じたでござんす」
なるほど、伝達手段に手紙という方法もあったか、とすっかり失念していた。「読んでも大丈夫?」
「どうぞ」




