2-29 ヴァンパイアの嫁
タケミは平然としているが、どんな心境なのだろうか。タケミに促されて、ある天蓋ベッドの前まで移動した。レースカーテン越しからでもわかる、そこに寝ている女性の顔が。目の下と頬は涙で乾き、長い髪は切られていないのか糸を丸めたように乱れていた。
ポキッと乾いた枝が折れるような音が聞こえると、女性は悲痛に叫んだ。それでも体を動かすまいと、必死に痛みを堪えて、震わせた喉を鳴らした。
私は彼女の姿をジッと見つめた。目線を同じ高さに合わせもせず、気持ちを寄り添おうともせず、レースのカーテン一枚越しに、まるで遠くの国からテレビのニュースを眺めているかのように、私は彼女を見た。
「触れないようにお願いいたします」
私はただただ、カーテン越しから見るだけの人で、こんなに近いのに触れることさえままならない。彼女たちの声が耳に入るだけで頭の中が揺れるようで、意識的に一定の呼吸をする。
「いつかは治るのでしょうか」
「不明です。しかし完治はおろか、快復に進む兆しさえもありません」
「それではこのまま...」
「はい。苦しみ続けて、やがてお亡くなりになります」
可哀想などと思ってはいけないし、共感できなかった。それは突きつけられた現状を受け入れ難かったからだ。私は足早に各病床を回り、やがて入口の扉を指さした。
そうして私とタケミは部屋を出たのだが、安心している私がいた。私はこのような状況をなんとなく理解して部屋に入ったにも関わらず、目の前の扉を一枚隔てて、大きく違う世界だった。
だがしかし部屋を出てしまえば落ち着くもので、彼女らはこの物語の、いわゆるモブなのだろうと理解してしまう。それが脳裏をよぎり、そういう設定なのかと理解してしまう。それでも目に焼き付いた光景はひどく残酷なものだった。その二つの交差は私の感情をぐちゃぐちゃにさせた。
「お部屋に戻りましょう」
私がずっと扉を見つめているのにタケミはしびれを切らしたのかもしれない。今は考えをまとめる時間が欲しい。
タケミに促されて私は部屋に戻った。




