2-28 ヴァンパイアの嫁 〜城の病人
私はタケミについて歩き、また例のあの部屋の前を通る。うめき声が聞こえる。やはりこの声が何なのかが気になる私は「タケミさん、この声は何なのでしょうか」と再び同じ質問を投げかけた。
タケミは「病床に伏している方がいらっしゃいます。申し訳ございませんがお静かにお願いいたします」と同じ回答をした。
私はさらに「お見舞いをして差し上げたい」と興味をタケミに投げかけた。
「左様でございますか。もしかしたら言い方に配慮が足りないかもしれませんが、ルリ様がご覧になるべきではないかもしれません」
「ご覧になるべきではない、というのは患者さんのこと?」
「はい」
タケミの言葉はどういうことを意図しているのか。見るに堪えない光景や姿を想像してしまう。
「しかしながら、ルリ様。ルリ様もお噂を耳にしていることを前提でお聞きしているのであれば、ご案内するべきなのでしょう」
『噂』というのが何のことか分からなかったが、私はまるで覚悟を求められているようで、単なる興味でお見舞いをするべきではないように思えた。しかしいつか、知ることになるのだろう。それが今か後かの違いである。
「噂の真偽を自分の目で確かめたい気持ちがあります。なので案内していただきたいです」
それは嘘と言えば嘘なのであるが、私は『ユリ』。ルリの妹で身代わりとしてこのお城にやってきて、ルリに代わって振る舞わなければならない。きっとこれが正しい選択なのだろう、と自分に言い聞かせた。
「承知しました。それでは、こちらに」
断られる展開を想定して、どうしたら案内をしてもらえるのだろうと考えをめぐらせていたのだが、なんともアッサリとした承諾に拍子抜けをしてしまった。
その木扉はギギギ...と重たい音を立てて開いた。こんな扉の向こうから声が聞こえたわけだ。うめき声は意外にも大きかったのかもしれない。木扉が黙ると、それは顕著だった。
私は息を飲んだ。
天蓋ベッドがいくつも並び、薄いレースカーテンにうっすらと浮かぶ細い枝...いや、人の腕だ。そしてあの声は、まるで枯れてひび割れた大地の底から聞こえるようだ。
「さあ、こちらに。お静かにお願いいたします」




