2-27 ヴァンパイアの嫁 〜一方、尾張は 2
コーヒーの香りがふわりと漂うと、時間も柔らかくなったかのようになる。そんなまったりとした空気とは裏腹に、状況というか、この物語は少し深刻の世界観であることを尾張は知った。
「つまりヴァンパイア様というのは、寿命を伸ばすために適合者の血を欲している、ということだね」
「そうよ。その適合者が私みたい」
「そしてヴァンパイア様がいることで町の周りにある森から魔物が町を襲わなくなる、ということだから、適合者が嫁ぐという形でヴァンパイア様の元へ行く、か」
「でも私は行きたくない」
「適合者に選ばれた者の中には適合者ではない場合がある。その者がヴァンパイア様に噛まれた場合、死ぬまで高熱と苦痛に苦しむ病に陥る、と」
今までどれほどの人がその病に陥ってしまったのか。適合者は女性かつ、血液型と遺伝子を考慮して選択される。その中から病にならない適合者は数パーセントという。
尾張は普段、登場人物との接触はしない。だが目の前の明らかなキーパーソンを動かさずには、この物語は動かないということを見越しての接触だった。だからなるべく、できるだけ、直接的な影響を与えぬ様、いかにも自身で答えを導いたように装わなければならない。
「ただキミはこの現状をどうすることもできなく悩んでいるわけだ」
「それは...」ルリは悩ましく辛いのか下唇を噛んで悔しそうに「私はこの世界を変えたい。適合者がいない世界になって欲しい」と本心から言った。「たとえ私がヴァンパイア様の真の適合者であったとしても、ヴァンパイア様の寿命が五十年延びるだけ...つまりまた適合者が選出される時が来る。それの繰り返し」
ルリの思いは尾張も理解できた。適合者でなければ死ぬまで苦しむ病は恐い。そんな状況を変えるために、まるで鎖に巻きつけられた世界を解放したい、そう思ったのだろう。たぶん、自分だけが助かりたいなんて思っていないだろう。尾張はわずかながら、ルリから恨みさえも感じた。いや、強い決意のようにも感じる。
「キミがこうなって欲しいという世界像は分かるのだが、それは実現可能なのかい」
「それでも私...私たち人間は、ヴァンパイア様を頼ってはいけないのだと思う。だけど尾張さんの懸念する通り、実現はできない」
この世界のヴァンパイアは絶対で、ヴァンパイアがいるから町の魔物が町を襲わないわけで、つまりヴァンパイアを頼らないという道は魔物と戦うことが想像されるのである。しかしルリの選択はそれではない。
「私がやらなければいけないことは、ヴァンパイア様との共存だと思う」




