2-26 ヴァンパイアの嫁
そんな蛇ににらまれたような、そんな状況が続くのかと思いきや、ヴァンパイアは私にゆっくりと近づいた。
ヴァンパイアの一歩が地を揺らすような錯覚を覚え、次第に大きくなっていく。気付いた時には手の届く距離にヴァンパイアは近づいていた。
「こんにちは。無事に戻ってきてなによりです」
まともに直視なんてできなかった。ヴァンパイアが近づいてきてから分かったのだが、とんでもなく顔が美形だったのだ。恐ろしさなんて吹っ飛ぶくらい、見続けていたら吸い込まれてしまうくらい、本当は触ってみたいという誘惑に駆られるのを抑えるのに必死だった。
「まずは顔が見れて良かった...夕食の準備をさせましょう。それまで部屋に戻って休むとよいでしょう」
やり取りなんて覚えていない。気付いたら広間の外にいた。対面していた時間は何分もなかったのだろう。しかしその時間は止まっていたかのように長く感じられて、ピカッとフラッシュしたかのように一瞬にも感じられた。
目の前には閉じられた分厚い扉、この扉の向こうにヴァンパイアがいたのだ。そう思いながら、扉の腹に指を優しくこすり、この扉を押し開けてまた会いたい、と恋焦がれる衝動に近いものに満たされ、先ほどのように扉から強い威圧を感じなくなっていた。
愛しく扉を見ている私の背後でタケミは「ユリ様、移動しましょう」と声をかけた。
私の中で燃えるような熱は小さな箱に押し込まれて、私は一歩扉から離れてゆっくりと振り向いた。「行きましょうか」きっと私の顔は歪んでいただろう。




