2-24 ヴァンパイアの嫁
三軒の喫茶店の窓を覗いて、六ヶ所の公園を周った。兎にも角にも歩き回り、ようやく七ヶ所目の公園で、職を失ったサラリーマンのようなたたずまいでベンチに座るルリを見つけた。まだ午前中、小さな子供連れの親子や犬を散歩させるご年配の中、ベンチにたたずむ若い女性がいるのはやけに目立つ。
さて、尾張がここまで来たのは、彼女の『したいこと』というのを知りたいからだ。ルリのしたいことが終わらない限り、ルリの身代わりをしているアミと代わることはないだろう。彼女の『したいこと』が達成されれば、この物語の作者が想定していたであろう筋書通りになる。それが一番の悩みポイントだったのかもしれない、この物語が放置されてしまった理由というのは。
ただルリを眺めているだけでは何も進展はない。尾張は意を決して登場人物に話しかけてみることにした。ベンチ一人分を空けて、尾張はルリの隣に座った。ルリはピクリとも反応しない。
「こんにちは」
ルリは尾張に気付いたように、黙って尾張を見た。ジトッとした目は不審者でも見るようだった。
「僕はユリさんの友達なのだけれども、キミが悩んでいるから相談にのってあげてと言われたんだ。どんなことで悩んでいるのか聞かせて欲しいのだが、いいかな」
「ユリが?」ルリは驚いたような目で小さくうなずいた。「悩んでいるのは確かなのだけれど」そして困惑したように顔をしかめた。「何かしなければならないはずなのに、何をしたいのか分からない」
ルリの『したいこと』を知りたい尾張にとっては本末転倒であったが、内心「そんな気がした」とも思っていた。なんともこの物語の作者は無責任で、登場人物に目的を与えながらも具体的な内容が明確ではないので、物語が進まない。
こんな場面に尾張は何度も向き合ってきた。やらなければならないことは分かっているのではあるが、一方的に押し付けるというのは、場合によっては物語の崩壊を招きかねない。だからこそ慎重に登場人物の思考や性格を知った上で提案をして行かねばならない。物語の部外者はこんなことをするべきではないのだが。
「ルリさん、ちょっとお茶でもしないかい?」尾張はこの公園にたどり着くまで、様々な喫茶店を見てきた。ルリと会話を重ねることをするのはもちろんだが、入ってみたいなと思ったお店があったということもあっての提案だ。
この提案にルリはうなずき、スッと立ち上がった。「いいわよ。それじゃ、行きましょう」
ルリを探すために覗いた二軒目の喫茶店、ドラマに出てきそうなモダンで店主のお好みでレコードを流すようなお店だ。
「ここにしよう」
ルリはうなずき、二人はお店に入った。




