2-23 ヴァンパイアの嫁 〜一方、尾張は
公園の入り口から尾張はアミが乗る馬車を見送り、栞を取り出した。「ここは...ガモン君かな」栞が光ると、『現代に生きる、はぐれ忍者』の賀門花丸が飛び出てきた。
「尾張殿!何か御用か」しかし飛び出たはずの花丸の姿はそこにはなかった。
「キミはいつも元気だし、どこから声がしているのか分からないね」
花丸という男は人前に正体を現すことができないほど恥ずかしがり屋で、忍者の里がなくなり町に降りてからは細々と世間になじもうと努力をする忍者である。花丸の特技は変装であり、体格が異なっていても難なく変装をすることができる。それならば変装して人の前に出れば、というものの本人いわく、本当に変装できているのかが不安で恥ずかしいらしい。だがその変装技術は完璧と言えるほどで、声真似もまるで、ではなく本人そのものであった。花丸は杞憂をしがちであった。
「さてガモン君。早速だが、あの馬車の中にいる女の子を追って、状況を逐次教えて欲しいのだが、キミにお願いできるかい?」
「その馬車というのは、あの豆粒のようなやつでござんすか」
馬車はもはや形すら見えないのだが、花丸は猫の毛に付いたノミも見えるほど視力がよい。
「そうそう。アレだよ。途中で危険生物がいっぱいいる森を通らなきゃいけないのだけれど、キミの足の速さならきっと大丈夫さ。頑張って」
励ましのように聞こえる文章で、だが熱のこもっていない声だったのだが、花丸には十分に心に響く言葉だった。
「尾張殿...承知したでござんす。ただちにあの馬車を追うでござんす」
「キミだけが頼りだ。宜しく頼むよ」
「うぅ、なんと勇気と力が湧いてくる言葉...いざ!」すると公園の木の陰で木の葉が小さな竜巻に巻かれていた。
尾張は花丸と直接顔を合わせることもあるが、それでも花丸は恥ずかしいと感じているので、このような別れ方になるわけだ。
「さて...」尾張は公園を離れ、商店街に戻った。それは『ルリ』を探し始めるためであったが、どこにいるかは見当がまったくついていない。とにかく歩き回って情報を集めるしかないのだが、まずはカプセルホテル前まで足を運んだ。最後にルリを見たのはホテルのフロントで、そこからどこへ向かったかは不明だ。
ホテルを出てから左と右、どちらへ向かうか。左なら商店街、右なら住宅街。
尾張は迷わず住宅街に向かった。商店街に向かったなら、先ほど商店街をうろついていた時に見かける可能性があったからだ。たまたま見かけなかった、ということも考えられるが、確率を考えれば住宅街が怪しいと直感で動いたのだ。
家に帰っていたらどこにいるのか分からなくなってしまう。とはいえあれからだいぶ時間が経っていた。仮に帰っていないとしたら、歩き回ることはないだろう。公園や喫茶店などにいる可能性が高い。




