2-18 ヴァンパイアの嫁
馬車はあの城へ向かっているわけだが、町の外に近づくに連れて速度が上がり馬車の揺れがひどくなる。やがて魔物が棲む森に入っていくと、さらに猛スピードで馬車は突っ走る。馬車は木々の葉をひっかくように揺らし、舗装されていない道から跳ね上げ宙に舞っては、地面に車輪が落ちる衝撃は雷が落ちるのと等しい。
「イタッ」上下に揺れる車内の持ち手につかまったものの、天井に頭を幾度とぶつけた。
なぜこんなに速度を上げて走るのか。それはわずかながら聞こえてくる「キィ、キィ」という鳴き声とそれに混じる羽音が馬車を覆っていたからだ。どこから湧いたのか、時折コウモリの大群が馬車にぶつかり、あちこちでバタバタと車内を響かせた。
いよいよ森を抜けるとコウモリはいなくなり、馬車はゆっくりと速度を緩めた。そしてキレットのような崖路を慎重にして進む。窓から見えるのは闇のような谷底があり、馬車が少し傾くたびに落ちるのではないかという恐怖で肝が冷える。
そんな恐ろしい行程を経て、ついに城にたどり着いた。石造りの城は町から見えた印象よりもさらに大きい。鉄の城門が地響きを鳴らしてゆっくりと開き、馬車は城内に入り中庭に停まった。
「足元にお気を付けください」御者に促されるまま馬車を降り、草木が生えていない赤土を踏んだ。とても静かで、とてもピリッとした空気を感じる。「なんか寂しいところ」と私はつぶやいた。
「こちらへどうぞ」御者は城内へと案内をするのだが、ジェットコースターのような馬車に長く座っていたため、私の足はすっかりガタガタとなってしまった。歩き方を忘れてしまったかのようにぎこちない。御者は「先に足を休ませましょう」と私に肩を貸して城の入口脇にある小さな部屋に誘導した。足湯のような空間で、私をベンチに座らせて御者は槽にお湯を張った。
「少々お待ちください。使用人を呼んで参ります」御者は部屋を出ていった。しばらくすると、女性の使用人が部屋に入ってきて「タケミでございます。どうぞ宜しくお願いいたします」と深々と頭を下げた。私は会釈をし。「私はア...ユリです」自分の名前を間違えそうになった...いや、間違えそう、だったのか?




