1-2 VS怪獣
文字通り、あっという間に噴水公園に到着した。あのおじさんはいるのか、息切れした肺を落ち着かせながらあのベンチに向かった。おじさんは、いた。
しかし時間が経つと冷静さが戻ってくるもので、私は何にすがろうとしているのだろうと疑問を抱き始めた。単なるおじさん、たかがおじさん、ついさっき初めて見たおじさんだ。そんなおじさんに何ができるのか、私は何を求めようとしているのか。
さらに冷静になると、私が何を求めているのかが明確になってきた。現状を知りたいのだ。あのおじさんなら何かを知っている、そう確信があるのだ。だから家を飛び出して、災害後のような危険な道のりを駆け抜けたのだ。
「やあ、待っていたよ」おじさんは私に気付いて立ち上がった。しかし「アレ、キミが来たのか」と顔をしかめて頭を抱えた。私以外が来ると思っていたのだろうか。
小さな揺れを足の裏に感じた。そしてさっきと同様、だんだんと大きな揺れが押し寄せる。
「まあいいや、もう来るよ」おじさんは空を指さした。
ニュッと現れた大きな物体。表面はテカテカとしていて爬虫類のような体型、目がギョロギョロと辺りを見まわした。
私はさっきの大きな揺れにまたもや地面に伏していた。
「何を寝ているんだい。ほら、これを持って」
私が手渡されたのはおもちゃ売り場に売っていそうな、ちゃっちいステッキだ。これを持って何をするのだろうか。
「ヒーローステッキさ。いや、キミが使うのだから『ヒロインステッキ』だね。それを振ると光の粒子が出る。光の粒子をまとえばヒロインに変身できるわけだ。変身したら力がみなぎるわけだから、あの怪獣を倒せる、という流れだよ」そしておじさんは軽快に手を叩いた。「さぁ、それではやってみよう」
まるで幼子にでも問いかけるようであった。
私はとりあえずステッキを持っているのだが、やはりおじさんの言わんとすることを疑わしく思った。ヒロインに変身するということもそうだが、怪獣と戦うということも現実的には思えない。
「グズグズしていると町が壊されちゃうかもよ。早く倒さなくてもいいのかい、アレ」おじさんは諭すというよりかは、たき火に薪をくべるように言った。そして「こうだよ、こう」と変身ポーズを決めるのであった。
怪獣は町を蹂躙し始めた。家を踏みつぶし、電柱をなぎ倒し、地面を揺らす。
信じるも信じないも、今はやるしかない。私はステッキを高々と上げて、おじさんと同じポーズを決めた。
「こうだよ、こう」おじさんは手首を回した。
私も手首を回し、頭の上でステッキがグルグルと回る。するとおじさんの言う通り、光の粒子がパラパラと降ってきたのである。光の粒子が私に当たると強く発光し、体中が発光するとヒロインスーツに変わった。