2-14 ヴァンパイアの嫁
「変わっている、のか元々そうなのか、少なくとも僕が覚えているキミの顔は今の顔ではないよ。キミは後者だと思っているようだが」
「ねえ、さっきの鏡を貸してよ」尾張から手鏡を受け取り、私はまじまじと自身の顔と向き合った。そして答えは「変わっているの...?」だった。
「もしかしたら、キミはこの物語に合う顔になっただけなのかもしれないし、実はキミが住んでいた物語の顔もその物語に合っていた顔だったのかもしれない。キミの本当の顔はなんだろうね」
ここまでの尾張の反応には納得できた。あの女『ルリ』という顔を覚えたが、私の顔がルリと同じだからあんな反応であったし、ホテルのフロントで私を初めて見たようなあの顔には理解できた。
「ねえ、尾張さん。変わっているの?私の顔」
「うん、変わっている」尾張は大きくうなずいた。
やはり信じられないというのが先行している。今の顔は今まで付き合っていた私の顔で、それだと私の意識がこの顔が正しいと思い込んでいることになりそうだ。それはいつからなのか。少なくとも昨夜、尾張と別れる前は顔が変わっていないと思う。それから今朝、尾張と会うまでの間、この間に顔が変わっているのだと考えられた。
「まあ、ともかく、キミの顔が変わった話はとりあえず置いておこうか」
「置かないでよ!」知らないうちに自分に変化があるだなんて、そんなの恐怖でしかない。またこんなことがないとは言い切れない。
尾張は冷静に「とはいえ、すぐにどうこうすることはできないだろう」と私の考えていることを見透かすように言った。「この世界の物語を綴じなければならないのだから」
「確かに」私は甘んじて受け入れるしかない。のどまで押しあがっていた叫びをムリに飲み込んだ。
「で、なんだけど、この世界の物語の今後のこと。まだ仮説というか直感なんだけど、『ルリ』という人のやらなければならないこと、まずはそれを決める、そして実行する。最後にヴァンパイア様の元へ行って、エンドだ」
私は尾張の仮説にそうなのかもしれないと思ったが、その答えを導いた理由を知りたかった。「尾張さんは何でそう思うの?」
「この物語を作ったのは作者であり、人間だ。この物語を書いていた作者が、どこでつまずいてなぜ放置してしまったのかを考える。すると『ルリ』はある話題になると、無理にでも遮ろうとするならば、それが怪しいわけだ。『やりたいこと』が決まってないんじゃないのかな。少なくとも彼女はやりたいことを終わらせなければヴァンパイア様の元に行かないわけだから、そこをどうにかすればこの物語の終わりが見えてくる」
なるほど、と私は頷きジョッキのメロンソーダに手を伸ばしストローをくわえた。そして尾張の不意な言葉に気持ちが動揺した。
「キミが感じていたこと、全部話してくれたから導き出せたんだよ。ありがとう」
ブッとジョッキの中に大きな泡ができた。
「もう、汚いなぁ」尾張は冷めた目でジョッキの泡が消えるのを見つめた。
「ゴメン...」
耳も顔も熱くなり、冷ますために炭酸を飲んでしまうものだから、今度はむせた。
そんな私を気にすることなく尾張は「やりたいことを納得できる落としどころにもっていかなければならない」と話を続けた。「何を『やりたいこと』に定めてあげるか、まだまだこの物語のことを知らないといけない。これを食べたら調査開始だ」
「うん、分かった」半分くらいしか尾張の話を聞き取れなかった。すべては不意打ちのせいだ。




