2-12 ヴァンパイアの嫁 〜モーニング
尾張は相変わらず私の先を歩き、私はその後をついていく。さっきの尾張の顔は何をあらわしていたのだろうか。考えてみても思いつかない。私が特急で支度をしたものだから、髪も顔もメチャクチャになっていたのだろうか。そんな状態を想像して私はからんだ髪を手櫛でほぐした。
ほどなく喫茶店に入り、扉を開けばかぐわしいコーヒーの香りがした。きっとこれから朝食なのだろう。席について尾張はメニューを私の前に差し出した。そしてすぐに店員を呼んだ。数秒でメニューを決めろ、という罰ゲームを強要する。
「ホットのモーニングで」
私は素早くメニューを確認して目についた文字を読み上げた。「私はメロンソーダ、あと―」
喫茶店の『モーニング』という言葉には憧れがあった。響きもそうだし、言ってみたいと心から切望していた。だからなのだろう。少し鼻息を立て、早くなる鼓動を抑え、目をぎらつかせて、嬉々としたこの気持ちが顔に出ないよう筋肉をこわばらせて「モーニングで」と力を込めて言うと、頬が吊り上がっていたのが分かる。少しばかり緊張も混じっていただろう。額ににじみ出る脂汗がその証拠だ。
店員は伝票に注文を書くと、無表情のまま厨房へ向かった。
尾張は私のことを見ないように窓の外を眺めていた。
朝のお風呂のことを言うべきだろうか。フラグを立てたような気がすること、なんでも共有するべきだろう。「尾張さん、ちょっと聞いてほしいことがあるのだけれど」
尾張は目だけを私に向けて「何だい?」と言った。
私は女のこと。女が何かをしようとしていること。私が『ユリ』と呼ばれたこと。女と私の顔が似ていること。『ヴァンパイア』様のこと。私がヴァンパイアのところに行かなければならないこと。女との会話の違和感。私の推理。とにかく全てを話した。
「たぶん、キミの想像通りだと思うよ。その人とキミは何かしらの縁があって、そしてこの世界をヴァンパイア様が支配している。たぶん、奉公か何かをヴァンパイア様のところでするんじゃないのかな」
「そ、そう」なんというか、何かツッコまれたりバカにされそうな気がしていたから拍子抜けだった。尾張なら平気で人を小馬鹿にしそうで、真面目に取り合ってもらえなさそうで、とにかくまともに取り合ってくれることに感極まった。




