2-10 ヴァンパイアの嫁
※一度すでに投稿していたEPを投稿していたので、削除⇒再投稿をしております。
「ヴァンパイア⁉」思わず声が裏返った。そんなものが存在するわけが、ない。
女は浴場を見回して誰もいないことを確認すると「ヴァンパイア『さま』」と強調して言った。「ヴァンパイア様に何かされたんじゃないでしょうね?」
しかし実在する。いや、この物語には実在する。『さま』と付けられているということは、この物語のヴァンパイアというのは神様のように崇められているのだろうか。それに『何かされた』だなんて、超常的な力を持っているのだろうか。とりあえず、物語を理解しながら話を合わせようと思った。
「あ、ああ...ゴメンなさい。ちょっとボーっとしちゃって。あんまり眠れなくて」ムリな言い訳に聞こえただろう。言った瞬間に、しまった、と引きつった顔をしてしまった。そしてさらに不安に顔を曇らせた。もうダメかもしれない。きっと私のことを怪しむに違いない。私は役を果たせないのだろう。
そんな絶望的な状況であるにも関わらず女は「そうなんだ」と簡単に納得した。
私は予想外の女の反応に困惑したが、安堵が勝った。
「私にはまだやりたいことがあるの。もう少し猶予が欲しいの」
とりあえず「分かったわ」と答えた。女のやりたいことというのも分からないし、また何をやりたいのかと尋ねれば、同じことを繰り返しそうな直感がしたのだ。しかしまた別の直感が、稲妻のようにビビッと体中を駆け巡った。
「ゴメンね。本当にゴメンね」女は膝を抱えて小さくうずくまった。責任に押しつぶされそうなその表情は同情を誘った。そして「今はまだ、ヴァンパイア様の元には行けないわ」とつぶやいた。
女の言葉に私の背筋がピンと伸びた。歯間に挟まったものがとれたように、女とユリの状況をなんとなく理解した。つまり「私がヴァンパイア様の元に戻らなければならない、のね」ということなのだろう。
「本当にゴメンね」
本来は女がヴァンパイアの元にいるはずだったが、女の『やりたいこと』によって顔が同じのユリがヴァンパイアの元に身代わりとなっていた。ユリである私がここにいるわけだから、女はユリが抜け出したか何かと思っているはずだ。そして女はユリをヴァンパイアの元にいるように遠回しに促している。
「それじゃあ、頼むわね」女はお風呂を出ていった。




