2-9 ヴァンパイアの嫁 〜ユリと出会い、物語は動き出した
次に目を開けた時は耳に目覚ましの音が入ってきた時だった。ただその目覚ましは私の部屋のものではない。部屋の外でガサゴソと音がして、宿泊スペースから人が出ていくのが分かった。このままもうひと眠りしてしまうと集合時間を過ぎてしまいそうな気がする。眠い目をこすって起き上がると、狭い部屋の天井は近く危うくぶつかるところだった。部屋の入り口に腰をかけて落ち着く。
ここはカプセルホテルなんだ。辺りを見て自分のいる場所を確認した。目覚めた時、もしかしたら違う世界にいるのかもしれない。そんな不安を抱えていたのだが、悪い想像が的中しないで安心した。
集合時間までまだ時間がある。そんなに寝ていないのでまだ眠気もあるし、気だるさもあるわけで、せっかくなので地下にある入浴施設に行ってみることにした。とはいえあわよくば入浴したい願望もあって、目覚ましに起こされてラッキーというのが本音だ。
地下にお風呂があるだなんて趣があって乙である。湯煙に包まれた浴場がガラス越しに見える扉を開けて、一番風呂だと意気揚々に飛び込むと人影がゆらっと揺れた。他の人がいるものだから、高ぶった気持ちを抑えて体を洗う。朝のシャワーはとても気持ち良い。
気配からまだ人がいるようだ。せっかくのお湯が張ったお風呂に体を入れずに浴場から出るのはもったいない。ゆっくりとお風呂に近づくと、人影は振り返り私を見た。そして目が合い、私はその姿に驚いて足を止めた。
「あれ、ユリじゃないの」
ユリ?明らかに私を見て言った。
「あなたもここに泊まっているなんて、ホント偶然」
もちろん私は彼女を全く知らない。誰と勘違いをしているのだろうか。
「ほら、あなたもこっちに来て入りなさいよ」
女は私を促すようにお風呂のへりをタンタンと叩いた。
私の直感がそうだ、と言った。これはこの物語の中のフラグなのかもしれない。そして私は登場人物として役目に徹するべきなのであろう。どんな役目かは分からないが。
ゆっくりと女の横へ、一人分の間隔を空けてお風呂に足だけを入れて座った。
「ねえ、それっていやがらせ?」女はジッと私を睨んだ。
「いえ、そんなわけじゃ...」どうやら私と女の間を空けすぎたのが原因のようだ。女と私は知り合い、いや、そんなものではないだろう。もはや予想は容易にできる。
「まあ、私も悪いからね」女は肩までお湯につけ、そして「ゴメンね」とつぶやいた。
何かこの女は私に対して、ユリに対して負い目を感じることがあるのだろうか。とにかく探るしかない、と思った。「なんであんなことをしたの?」
「前にも言ったと思うけど、やりたいことがあるから。少しでも猶予がほしかった、それだけよ」
「やりたいことって何」
女はエッ?と驚いたように私を見た。「ユリ、どうしちゃったの。さっきから変よ。まさかヴァンパイア様が―」




