3-65 転生免許
「そうだとしても、僕は登場人物にはならない」尾張は深くため息をついた。「とにもかくにも、こんな所を誰かに見られる前に出て行くべきだ」
尾張の言い分は分かるが、私のことも少しは理解してほしい。「分かった。出て行くけど、ついてきて」
払っても食い下がらない姿勢なものだから、尾張はついに観念したように「分かったから、ついていくから。でも遠くから見てるだけだよ。一緒にいられる所なんて見られたくないからね」と再びため息をついた。
「分かった」でも言い方に引っ掛かりがあった。まるで中学生がデート現場を友達に見られたくないような、反抗期の小学生が親に対する態度のような、何だか子供っぽい。
「何を笑っているんだよ。そんなに嬉しいのかい?」
「笑ってないよ」私は下唇を噛んで笑みを抑えた。
「じゃあ、キミは何事もなかったかのようにこの部屋を出るんだ。僕は後でこの窓から出て行ってキミをつけていくから」
「ストーカーみたい」
「ついていかなくてもいいんだよ?」
私は早足で「じゃあ、出ていきますね」と出口に向かった。そして一度振り返った。「ちゃんとついてきてね」
尾張は暗がりの中、ぼうっとした灯りに顔だけが不気味に浮かび、ゆっくりと頷いた。
「絶対だよ」私は部屋の外に出て、急いで自室に戻ろうとした。すると廊下でキョウトとバッティングした。
「シスター」
そう呼び止められた。キョウトはいつものような雰囲気であったが、それは前にもあったイヤな予感。しかし私は恐れず自分の役を全うする。「あら、キョウトさん。エチワカはどうしましたか?」
「シスターの部屋で休ませました。オレはこれから自分の部屋に戻る所です」キョウトは私が出てきた部屋の方をチラチラと見ると「シスターはあの部屋で何をされていたのですか?」と静かに尋ねた。
私は間を空けず答えた。「幽霊調査にお誘いしました」
「それは何故でしょう?」
「だって幽霊が怖いんですもの。一人じゃ調査に行けないですし、キョウトさんが来てくれる訳でもないし、藁にすがる思いで誰でもと頼んだだけですが」
キョウトは黒い目で私をジッと見つめ「そうですか」とだけ答えた。そして「お気を付けて」と言うと私の横を通り自分の部屋へと戻っていった。
上手くすり抜けられただろうか。とりあえず、ホッと胸を撫で下ろして自室に戻った。




