3-61 転生免許
キョウトは周囲を見回してゴブリンがいないことを確認し、剣を鞘に戻した。「大丈夫ですか?」キョウトは私に手を差し出した。
何もできなかった。恐怖だった。戦うつもりなど毛頭ないが、せめて戰場から離れて邪魔しないことすらできなかった。もちろん突然の敵との遭遇も経験が無いなりに想定してどう動くかをイメージしていた。それでもだった。
「シスター?」
「…え、ああ、はい。大丈夫です」キョウトの声が非常に頼もしい。私はキョウトの手を掴み立ち上がろうとするも、立ち方を忘れてしまったかのようにうまく立てない。「あら、どうしてでしょう」
「少し休みましょうか。しばらくはあのゴブリンたちも現れないでしょう」そう言うと、キョウトは私の横に座った。
ここに初めて来た時もゴブリンと遭遇したが、その時とは違うリアルな感覚、それが死という感覚であったことには間違いない。この物語で過ごす時間が経つにつれ、知らずの内に具現化していたのだろう。
「ケガはありませんか?」
「ええ、はい。大丈夫です…」被害は泥団子をぶつけられて汚れた服のみだ。私は顔についた少し乾いた泥を指で払った。
「やつらは悪戯好きの妖精の類とされているのですが、この辺りのゴブリンは人を襲ったり金品を盗んだりと度を超えることが多いと聞きます。中には人家を守ったり、人間に好意的なゴブリンもいると聞きますが、ほんの一部でしょう」
ゴブリンに襲われて、私がいる世界はリアルであることを思い出した。物語を綴じるというのは、まるでゲームのクリア条件でそういう遊びのように思っていた節があったが、この泥団子をぶつけられた衝撃はリアルだ。
キョウトは青ざめた顔の私を見て、それ以上は何も言わずに黙って私の側で待っていてくれた。
そんな時、エチワカは私の前に立った。「見て」エチワカはゴブリンの身体から引きちぎった頭部を、耳を持ってぶら下げた。
私は悲鳴を上げてその頭部を思い切り叩くとと、宙を舞った頭はやがてコロコロと草原を転がった。




