3-57 転生免許
何とも空気が悪く居づらい。
「マヨリさん、粗相を申し訳ございませんでした。本日はこれでお邪魔させて頂きたいと思います。もし良ければですが、またお話をお聞きしたいのですが宜しいでしょうか」
マヨリは鉄くずの箱を大事に抱えながら、静かにコクリと頷く。
「それでは、失礼します。行きましょう」エチワカの背を押しながら私はマヨリの家を出る。「キョウトさんも行きましょう」
キョウトはマヨリの持つ箱を見つめていたが、すぐに軽い会釈をして家を出た。
外はいまだ雨雲が空を覆っているものの雨は止んでいた。
エチワカは珍しく反省しており、シュンと小さくなっていた。自分のせいで家を出ることになったと感じているのだろう。
まあ、あそこまで黙られるとさすがに何か起こることなんて期待できないし、家を出るタイミングを実は探していたということも考えれば、エチワカの粗相は私には良いキッカケだった。
キョウトはしゃがみ込み、エチワカの目の前で指をヒラヒラさせた。いつもならその指を掴んだり、叩いたりするのに、私の服を引っ張り顔を隠して見ないようにした。キョウトは私を見上げて言った。「どうします?これから」
「そうですね…」どうするも何も、私たちには足りないことばかりが多すぎて、何から手を付ければいいやら。「整理すると、今はマヨリさんの敷居に土足で入り込んでいる状態で、マヨリさんの過去と幽霊の関係性を示さないと彼女から話を聞けないと感じました。私の憶測で彼女に詰め寄っていたので、私の行動が間違いでした。まずは幽霊の調査を深掘りましょう」とは言うものの、だから何をすれば…
「それなら、一度この鎮埠が建てられたキッカケとなる戦いについて調べませんか?」
キョウトからの提案にしては具体的に思えた。「どうしてですか?」
「実は、先ほどマヨリさんが持っていた箱の中に入っていた鉄なんですが、砕けた鎧や剣の残骸でした。それに、聞いた話ですが、戦いに出た全ての兵士には名前入りのペンダントが配られるそうです。例え顔が分からなくとも誰だか分かるように…」
それはあまり想像したくないものだ。
「そのペンダントがあの箱の中にありました。あれほど箱を大事そうに持っていたので、余程大切なものなのでしょう」
「ペンダントがあった…ということは」
「はい。マヨリさんにとって大事な人のものかもしれません」
事情は深刻なのかもしれない。それが、彼女が言いたくない理由なら察せる。私は自然と顔を曇らせた。
「最悪のことを考えているみたいですが、だからといってペンダントだけがたまたまマヨリさんの手元に行き届いていて、実は『カケノブ』さんが別の場所で生きている可能性だってありますよ」
確かに事実確認をしていないのでキョウトの言う通りだ。私は深く頷きながらも、キョウトが滑らしたように言った名前が気になった。「『カケノブ』さんって誰です?」
「ペンダントに刻印されていた名前です」キョウトは得意げに答えた。「俺、目が良いんですよ」
キョウトの態度は腹立たしいが、それは重要な情報だ。「その名前を調べて、どんな人かが分かれば、マヨリさんとの関係性や、レミノリアでの戦いにも参加してるかもしれない…珍しく頼りになりますね」
「『珍しく』は余計です」
「そはれではレミノリアでの戦いから調べましょうか」
空を見上げれば雲の隙間から手を差し伸べるように光が差していた。




