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アミテイル  作者: Yah!結う湯酔~い宵
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2-7 ヴァンパイアの嫁 〜カプセルホテルへ

 「これからどうするの、尾張さん」私たちは町をうろつき始めたのだが、目的がどうも分からない。どこへ向かっているのか、私は尾張についていくしかなかった。居酒屋を出てから商店街を抜けて、住宅街、公園、また住宅街そして畑と休憩なしに町のはずれまで歩き通した。


 「キミはなんとも、僕の苗字を教えたら苗字を頻繁に呼び始めるね」


 「呼んでもらうために教えたんじゃないの?」


 「そうだね。ただ頻繁に呼んでもらうためじゃない...まあ、いいや。これからだが、この物語を知るために情報収集を行う。というより、もう始まっているのだけど」


 町のはずれでは建物がなくなり、まっすぐの道が一本だけ。その道を避けるように森が目の前に広がっていた。この森はまるでこの町を守るように囲んでいるようだ。


 「ほら、アレ」おじさんが指す先には小高い丘の上に大きな洋風のお城がある。そのお城に行くには一本道を通り、さらに逆V字の切り立ったキレットのような道しかないようで、まるでゲームや漫画の世界のような立地である。そんなお城はどこか憧れとロマンを感じる。


 「とてもキレイ...」それもそうで、赤い月明りに照らされたお城は幻想的で美しい。あそこに住んでいる人はさぞ立派な人なのだと想像できる。


 「調べるも何も、あのお城が物語に関わっていそうなのは子供でも分かりそうなこと。まずは町の人たちに聞き込みをしようか」


 私は尾張の手際の良さに感心した。これがいつも物語を綴じるための行程なのだろう。ただ尾張の「子供でも分かりそうなこと」という毒のある言葉には鼻についた。


 「キミにもこの物語を知っていてほしい。キミはこの物語の登場人物であるのに、どうやらこの物語のことを知らないみたいだ...知っておくべきなんだ。登場人物なのに何も知らないというのはおかしいからね」


 確かに尾張の言うことはその通りなのだろうが、私はこの物語に初めて来たのだから何も知らなくて当然なのだ。「私はどんな立場の登場人物なのかしら」


 「また主人公の友達の親戚とかなら、何も知らない、でもいいのかもね」おじさんは笑った。「情報収集は早ければ早いほどいい。僕たちはこの物語のあらすじのどの段階にいるのかもわからない。来るべきクライマックスに備えて、僕らが物語を『めでたし』に導くための準備をしなければならないからね」尾張はクルッとお城に背を向けて「戻るよ」と商店街の方へ歩き始めた。


 物語を綴じる方法、それは物語を知るということ。物語を知り、中途半端に続いている物語の結末を導く。結末を導いて物語を綴じる。今はとにかく、この物語がどんな世界で、どこまで続いているのか、そして私がどんな立場の登場人物なのかを知ることが先決らしい。


 人っ子一人とすれ違うことはなく住宅街を歩いていると、気のせいか行きでは明るかった道が暗くなっているように思える。家々の窓から明かりが消えているようだ。商店街の方へ戻ると、商店街も人はまったくいない。それだけでなく店もシャッターが閉まっていた。


 「どうしたんだろうね。今は夜なのかな」


 「え、夜じゃないの?」空を見上げれば暗い空を煌めく星々と赤い月。町は街灯にともされているものの、それだけでは心もとない明るさである。この状態を夜とは言えないのだろうか。


 「考えていることは分かるが、ここは物語だからね。常識では考えられないことが常識のこともあるんだよ。だからすべてを鵜呑みにするわけでもなく、素直に受け入れることも必要なんだ」


 素直に受け入れる、か。私は尾張を疑い深く見た。


 「どこか宿をとろうか」


 「休めるの?やったー」


 尾張が向かったのはカプセルホテルだった。「ちょっと待ってて」尾張は建物の中に入っていった。


 豪華なホテルか風情ある旅館をイメージしていたわけで、もしくは民宿かビジネスホテルを想像していたわけで、サラリーマンが出張先でお金を浮かせようとして泊まる場所を想定していなかったわけで。


 私は町の中でも飛びぬけて高いホテルを見上げた。そういえばカプセルホテルって写真しか見たことないような気がする、どんな内装なのだろうと想像していた。


 尾張は建物から出てくると、ちょいちょいと手招きをした。「女性でも大丈夫だってさ」


 宿泊先が決まった。嬉しそうに手を振る尾張が恨めしかった。


 建物の中は受付と売店、そして大きな更衣室のみで、必要最小限の施設しかない。泊まる場所は二階より上で、エレベーターで移動するのだろう。私は売店にあるキーホルダーが気になって手に取った。


 尾張は受付の女性に「今、何時?」と尋ねた。


 「一時半です」


 「午前一時半ね、ありがとう。さあ、行こうか」尾張は受付から鍵を受け取り、更衣室に向かった。「何してるの、こっちだよ」


 売店を見回っていた私は石鹸やヘッドホン、タオルなどを物珍しく見ていた。そして肌着やTシャツが目につき、受付横の大きな姿見に映ったスウェット姿の私を見た時に気付いた。「尾張さん、私の服がランドリーに!」

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