3-52 転生免許
眠った記憶は覚えていない。まるで昨夜のことは夢だったようだ。
「昨日のユーレイまた見たい」
エチワカの一言でそれは現実だったと思い知らされる。無邪気に部屋を駆け回るこの子に悪気はないとは言え、私にとっては昨夜のことは夢であり続けて欲しかった。
部屋の扉からノックする音が聞こえ、エチワカが扉を開けた。
「おはようございます、シスター。お加減はいかがですか?」部屋に入ってきたのはキョウトだった。「宿の主人に聞きましたよ。ひどく体調が優れないようで…」
心配してくれたのは嬉しいが、私の深底まで沈んだ気持ちが浮上するわけではないし、今の私に必要なのはそれではない。それはふとしたように、パッと頭に浮かんだ顔がある。
「俺に何かできることがあったら何でも言ってください」
「それじゃ、エチワカを頼みます」私はエチワカを抱き上げ、キョウトに押し付けた。
「え?どこへ…」
私は二人を部屋に置いて、足の向くまま、フラフラとした足取りで別の部屋へ向かった。そのドアをぶち破るかのように、思い切り叩いた。一度とならず、二度、開かなければ三度、四度、それでも開けないのならば五度、六度、もはや壊れるまで七度―
「なんだい、騒々しい」部屋から出てきたのは尾張だった。企院が旅に同行する全員分の部屋を取っていたのだ。
八度目の拳は尾張の肩にぶつけ、私はノロノロと部屋に入った。
「痛いな。一体なんだい?」
私はベッドに倒れ込み「ううぅ…」と喘いだ。
「自分以外がベットに乗るの、耐え難いんだが」
私はさらに「あああぁ!」と叫び、足をバタつかせた。
「何だよ、用があったから来たんだろ?早く用を言いなよ」
「私、死ぬかもしれないの」
「あぁ、そうなのかい」
相変わらずの尾張節。いっつも他人事。
「『そうなのかい』って何よ!本気で悩んでるのに」
「はいはい。じゃあ、何があったか話なよ」
だけどそんな尾張節でも安心はできた。いつもの調子というか、前まではそうだったのに久しぶりで少し嬉しかったんだ。
落ち着いて話すことができ、私が幽霊について調査していることや幽霊に触れてしまい死ぬかもしれないことも伝えた。




