3-46 転生免許
ここまで来てようやく、エチワカの存在を案じた。このまま連れて入って良かったものか。しかし今更時を戻せるものではない。すでに応接室に入っているのだから。
私はエチワカの頭をポンポンと叩き、魔法の言葉をボソッと唱えると、エチワカは背筋を伸ばして姿勢を正した。
「こんにちは、レミノリアの府へようこそ。府長を務める『琅邪マホウ』です」女性は立ち上がり、座るように促した。
「竜頭アズミと申します。鎮埠の巡礼のためレミノリアに伺いました。この子はエチワカと言います」エチワカはフードを深く被ったままペコリと丁寧にお辞儀をした。
「魔物でしょうか」琅邪はエチワカを見て、確かにそう言った。
背筋が一瞬で凍てついた。そして足の痺れさえも忘れてしまうほど衝撃だった。表情は強張り、これからどうするかというよりも、今まで落ち度があったかと思い返す。エチワカもフードの中でキョロキョロと、私の袖を引っ張ることしかできない。
「またの名を魔脜とも―」
「そうです!マシンです!!」気付いたら私は反射的に答えていた。
「そうですか、魔脜ですか」琅邪は二回ほど小さく頷くと「それでは、座ってお話しましょうか」と再度冷静に琅邪が促すと、私たちはようやくソファーに深く座った。
だが安心するのも束の間、エチワカの正体がバレていて、何を追及されるのか分からない。
「私も魔脜を初めて見ます」そう切り出した琅邪は自分の頭を指して「フードを取ってもらえるかな」とエチワカに聞いた。
エチワカの黄色い瞳が深く被ったフードの奥から私を覗いた。それは不安で押しつぶされそうな、助けを求める目。
「いいよ」私はエチワカの頭を撫で、エチワカに寄り添う覚悟を決めた。エチワカの正体がバレた今、もう何を言ってもしょうがない。もしかしたらこのまま私たちは府に捕まって、そのまま処分されることも含めて、事の成り行きに身を任せる。その隙間にあるであろう脱出口を見出して必ずピンチを回避する。
エチワカは不安から諦めたようにしょんぼりと、ゆっくりとフードを取った。
「ほう」琅邪はあごに手を当てて品定めをするようにエチワカを眺めた。琅邪とエチワカの目が合うと、ビクリとエチワカは肩を上下させ、琅邪はニコリと笑う。
そんな様子を観察していた私は、私が思っていたことがかなり的外れのような気がした。
「あ、あの、琅邪さん。聞いてもいいでしょうか」
琅邪は視線から逃げるエチワカをジッと眺める。「えぇ、どうぞ」
「なぜ、この子を『マシン』だと分かったのですか?」
琅邪は一呼吸ほど沈黙した。「知っていた、からですね」
「知っていた?」琅邪は先ほど魔物を見るのは初めてだと言った。知っていた、というのは魔物というのはどんなものか知っていた、ということだろうか。エチワカは言いつけの通り、フードを深く被って正体を隠していたわけだし、問題なかったはず。
「ついでに言うと、あなた方がここに来ることも『知っていました』」
「え?」私たちが来るのを知っていた。考えられることは…「企院さん!?」
「先週くらいに速達の手紙が届きました。『知っていた』ことについて私が言えるのはここまでです」
たぶん、企院は先に手を回してくれたのだろう。「企院さんとはお知り合いでしょうか」
「えぇ、企院さんは私の先輩にあたります。とても良くして頂きましたよ」
良くして頂いた、というのを痛ぶられたと勝手に想像した。




